モノクローム・セットはチェリー・レッドからアルバムを発表した後、メンバーが激しく入れ替わります。まず、後にトンプソン・ツインズからシェイクスピア・シスターで活躍するキャリー・ブースがキーボードで加入します。

 そしてドラムがニコラス・ウェソロウスキーに交代し、さらに流れるようなギターで楽しませてくれたレスター・スクウェアが教師になったのでしょうか、バンドを去り、新たにベースのアンディ・ウォレンがジェイムズ・フォスターを連れてきました。

 アメリカ・ツアーでお金が無くなった彼らは元ラフ・トレードのジェフ・トラヴィスの新レーベルにして、メジャー中のメジャー、ワーナー傘下のブランコ・イ・ネグロと契約を交わします。この時の心境を語るビッドの言葉が面白い。

 「サッカー選手がレアル・マドリードと契約するか、ザンクト・パウリ(ブンデスリーガで当時低迷していたFC)に留まるかと聞かれたようなものだ」ということで、喜んでワーナーに移籍します。しかし、スター軍団はやはり居心地が悪かったらしく、後に激しく後悔することになります。

 そんなことがあるのかと思いますが、この契約はエヴリシング・バット・ザ・ガールをとるためのバーターだったといいますから、なおのこと悲惨です。しかしワーナーならばこそ、ロキシーやザ・スミスを手掛けたジョン・ポーターをプロデュースに迎えることができたわけです。

 そんなわけで、この作品はブランコ・イ・ネグロから1985年に発表されたモノクローム・セットの4枚目のアルバムです。リード・ギターが交替したせいか、よりシンプルなサウンドになりました。それにギターとドラム、ベース以外の音はほとんど聴こえてきません。

 ただし、少しキーボードの音は入りますし、女性ボーカルが時おり聴こえてきます。クレジットからは消えていますが、キャリー・ブースではないでしょうか。ほんの少しですけれども、素晴らしいアクセントになっていて、アルバムに深みが加わっています。

 1曲目の「ジェイコブズ・ラダー」からして、明るいゴスペル・タッチのポップな曲です。これはアルバムに先行してラジオでじゃんじゃんかけられたそうですが、アルバム発表時にはすでに息切れするという間の悪さでした。

 アルバムは前作ほどはあからさまな諧謔味はありませんが、より落ち着いた調子で、見事なポップ・ソングを披露しています。私は「レター・フロム・ヴィオラ」のような哀愁に満ちたワルツが特に好きです。やはり彼らは只者ではありません。

 ネオアコの元祖と言われれば、このアルバムなど確かにサウンド的にはその通りです。しかし、ネオアコと聞いて思い浮かぶ青春の甘酸っぱさとかやるせなさがモノクローム・セットには見当たらない。超然としているので、私の中ではネオアコと結びつきづらいです。

 アルバムは1万枚は売れたようですが、ワーナー基準だと一日に1万枚売らないとだめだということで、残念ながらモノクローム・セットはこのアルバムを最後に一旦解散してしまいます。ほんの5年間でしたが、密度の濃い活動でした。いいバンドです。

The Lost Weekend / The Monochrome Set (1985 Blanco Y Negro)