ムガール帝国を真の帝国たらしめた第三代皇帝アクバルは大帝と呼ばれ、インド史上でも最も有名な王様です。このアクバル、徳川家康と同い年です。家康が早生まれなので生年は一つ違いますが、同学年に間違いありません。そんな時代感覚です。

 ムガール帝国はイスラム国家ですけれども、アクバルはインド土着のヒンズー教勢力ラージプートと同盟を結び、インド支配を盤石なものとしていきます。そのラージプートの姫君ジョッダーとの政略結婚を題材にしたお話が「ジョッダー・アクバル」です。

 ジョッダーは実在しなかった説もありますし、虚実ないまぜになったお話ですけれども、ヒンズー教とイスラム教の宗教を超えた二人の愛を描くというインド人が大好きなストーリーで人気がとても高い。これも初めての映画化ではありません。

 こちらは2008年バージョンで、アクバルをイケメン俳優リティック・ローシャン、ジョッダーを美人女優の概念を変えたと言われるライシュワラ・ライ・バッチャンが演じています。まあ、この二人が美しい美しい。本当に美しい豪華絢爛歴史絵巻でした。

 音楽はマドラスのモーツァルト、ARラフマーンです。ラフマーンの作品は数多いわけですけれども、この作品は傑作とされています。派手な戦闘シーンを含む大スペクタクルであると同時に、丁寧にムガール帝国の宮廷を描く大河ドラマに相応しい重厚な作品です。

 引き出しの多いラフマーンですから、こうした大河ドラマにも見事に対応しています。もともと彼の作る音楽にはどんな形であっても品が備わっていますから、その部分を悪ぶらずに素直に増幅すればよいわけです。

 冒頭のテーマ曲は、インドでも有数のパーカッション奏者シヴァマニによる太鼓と剣による戦いのリズムを中心に据えた勇壮な曲です。クレジットではTAIKOとなっていますから、和太鼓も使っているのではないかと思います。その太鼓と剣を打ち鳴らすリズムの組合わせです。

 大人数によるコーラスはアクバルを崇める人びとの雄たけびです。本編よりも象部隊も登場する予告編に合わさったバージョンを聴くと、背筋は伸びて、アクバルの16世紀に連れて行かれます。これだけで映画の世界観は確立したようなものです。

 このサウンドトラックに収録されている5曲はいずれもインドの古典音楽を彷彿させる折り目正しさです。タブラなどの打楽器のみならず、ストリングスでさえも16世紀の古典音楽感を醸し出しています。王室の話らしい威厳と品が備わって素晴らしい。

 今回はラフマーン自身も「クワジャ・メレ・クワジャ」でボーカルをとっています。ソヌー・ニガムやジャヴェッド・アリに負けてはいない喉を聴かせます。ちなみにジャヴェッド・アリはこの作品で数々の賞に輝き、プレイバック・シンガーとして大成していきました。

 この作品は賞レースでは、同じラフマーンのR&B系作品「ジャアネ・トゥ・ヤ・ジャアヌ・ナ」の後塵を拝してしまいました。恐らくは、こちらの方がよりディープなインドを感じさせるからなのではないでしょうか。外国人の目から見ると、それはむしろ加点ポイントです。

Jodhaa Akbar / A.R. Rahman (2008 UTV)