モノクローム・セットのデビュー作品は素晴らしいジャケットでした。傑作ばかりのピーター・サヴィルの作品の中でも最高の部類に入るのではないでしょうか。LPサイズの銀色と見まごうジャケットは部屋に飾って飽かずに眺めておりました。

 モノクローム・セットは1976年に結成されたBサイズなるバンドが母体です。まず、ロンドンのアート・スクールにいたカナダ人トム・ハーディーと、後のアダム・アント、スチュアート・ゴダードが組んでいたバンドがメンバー募集の新聞広告を打ちます。

 これに応えたのがインドとアメリカのハーフ、ビドでした。募集はベーシストだったので友人アンディー・ウォレンとともに応募します。Bサイズの誕生ですが、アダム・アントが一旦抜けてから舞い戻り、バンドはビッドを残してアダム&ジ・アンツになりました。

 トムはやがてビッドの元に戻り、名前をレスター・スクウェアとします。ベースとドラムを加えて、ここにモノクローム・セットが誕生しました。1978年の最初の頃です。やがて、彼らはラフ・トレードからシングルを出します。

 シングルはヒットしませんでしたが、彼らの人気は徐々に高まります。そんな時、アダム&ジ・アンツが一旦解散してウォレンが戻ってきました。そして、新レーベル、ディンディスクからアルバムを出すことになりました。OMDのデビュー作を出したレーベルです。

 これがそのデビュー・アルバム「ストレンジ・ブティック」です。冒頭の一曲はバンド名を冠した曲「モノクローム・セット」です。これにまずやられます。もともとシングルで出ていた曲ですが、アルバム・バージョンは大きく違います。

 ドラムのJDヘイニーが、当時英国のポピュラー音楽界を席巻し、後にアダム・アントが大ヒットさせたブルンディ・ビート的なビートを叩くと、それを二重三重に重ねて、そこにタンザニアのセレンゲティ国立公園の音を加えて、アフリカンな響きを醸しています。重いビートです。

 私にはジャケットとこの名刺代わりの一曲の印象が強烈すぎて、モノクローム・セットをネオアコの元祖とする説明が何とも居心地が悪く感じます。実際には、アルバム中、こんな曲はこれだけなんですけれども。

 彼らはギター2本にベースとドラムというシンプルな構成です。ギターは二本ともリードですし、ベースもメロディアス、そこにビッドの飄々としたボーカルが重なり、メロディーが4つ。そのサウンドは細身のジャケットが似合うタイトなサウンドです。

 それにビッドの歌詞が秀逸です。フランス語を使った「イシ・レザンファン」でタイトルを連呼するサビの部分や、「ライター・サイド・オブ・デイティング」では何の脈絡もなく♪そして私はスキーがしたい♪と出てくる唐突さなど、聴きどころが多いです。

 「スタイルなんて意識したこともない」と語るビッドですが、当時、彼らのサウンドはとてつもなくスタイリッシュに感じました。アルバム中でもさまざまなスタイルが同居していて、これが無意識に出てきているのであれば、それはそれで凄い話です。名作です。 

Strange Boutique / The Monochrome Set (1980 Dindisc)