クラウス・シュルツェのサウンドはなるほど映画向きです。こうしたシンセサイザーを使った電子音楽が映画と相性が良いことは比較的早い段階で発見されていました。というわけで、これはシュルツェにとって初めてのサウンドトラック作品です。

 その映画は「絶頂人妻 Body Love」です。そのタイトルから分かるようにポルノ映画です。しかも日本公開されています。今やすっかり姿を消しましたが、昔は洋物ポルノは結構日本でも公開されていたんです。

 このサントラを手掛けるに至った経緯が面白いです。映画監督はラッセ・ブラウン、イタリア人で60年代には「エロティックな映画の中でもアヴァンギャルドな作風で知られていた」そうです。「ボディ・ラヴ」は彼の傑作3部作の一つです。

 シュルツェは知り合いの映画製作者経由でブラウンからの依頼を受け、最初はポルノだからと躊躇しましたが、すでに出来上がっていた映像を見ると「ふうん、悪くはないな」と思ったそうで、なによりも会話部分が少なく、音楽を流し続けることができるところが気に入りました。

 そもそもブラウンは撮影中にシュルツェの「タイムウィンド」や「ムーンドーン」を流していたそうで、そのリズムに合わせて行為が営まれていたと言いますから面白い。そうして出来上がった映像に後から音楽をつけていくという興味深い構図が出来上がりました。

 ブラウンの注文は「とにかく音楽をくれないか。1時間か1時間半くらいがいいかな」ということだったそうですから、シュルツェとしては普通の作品を作ればよいことになります。というわけで、何ともベストなマッチングです。

 日本でも日活ロマンポルノに代表されるようにポルノ映画はエロでさえあれば何でも許される自由があり、気鋭の監督による先鋭的な表現の場でもありました。ドイツでも恐らくはそうだったんでしょう。当時のシュルツェのようなアーティストには実はぴったりです。

 シュルツェにとっての最大の制約は、「『ムーンドーン』のリズムに合わせて上下に激しく揺れていた」画面の中の二人でした。勢い、「ムーンドーン」の路線を追及することになります。そういうわけでドラムには「ムーンドーン」同様、ハロルド・グロスコフが参加しています。

 本作品は全部で3曲となっていて、その一つは「ブランシュ」。何と当時のフランス人ガールフレンドの名前だそうです。普通の作品なら良いですが、さすがにポルノ映画のサントラに名前を付けますかねえ。二人は一緒に映画も見たそうですから納得の上だと思いますが。

 ともあれ、「ムーンドーン」の路線ながら、スタジオ使用にも慣れてきていますし、目的もはっきりしているだけに迷いがまるでなくて、解説の中野泰博氏の言葉通り「全体的な出来としてムーンドーンより密度が高い」と私も思います。

 これを聴いたフランス人ジャーナリストは、「この素晴らしいアルバム『ボディ・ラヴ』は、また愛を交わす時の最高のBGMである」と伝えてきたそうです。シュルツェ作品がフランスで人気がある理由が分かったような気がします。

Body Love / Klaus Schulze (1977 Brain)