ジャケットのイメージは核戦争で人類がほとんど死滅した世界の夕焼けだとばかり思っていました。よく見れば犬ぞりです。タイトルは直訳すると「旅行記」ですから、勝手に終末のイメージを重ねていたにすぎませんでした。

 この当時のシンセ・サウンドはインダストリアルな、どちらかといえば重苦しい響きでした。それは当時のシンセの特性でもあったのではないでしょうか。意図して重い音楽をやるつもりはなくてもそういうサウンドになってしまう。

 ヒューマン・リーグの2枚目のアルバムもそんな響きですけれども、同郷のキャバレー・ボルテールやクロックDVAと比べるとずっとポップな調子です。発表当時は魔法にかけられたかのように、シリアスに受け止めていたことが今となっては懐かしいです。

 ヒューマン・リーグは前作の後、トーキング・ヘッズのヨーロピアン・ツアーに同行することになっていたそうです。しかし、彼らの映像とともにプレイするスタイルはプロモーターに理解されず、直前にキャンセルされてしまいます。パイオニアは辛いもんです。

 彼らは空いた時間をレコーディングに振り向け、ここにセカンド・アルバムが完成しました。前作に比べると、格段にサウンドはくっきりと際立っていますし、ボーカルも力強い。前作同様シンセ+ボーカルのサウンドですが、見違えるように自信に満ちています。

 この頃のヒューマン・リーグと言えば、フィリップ・オーキーの片方だけ長髪頭、ジオメトリック・ヘアがトレードマークでした。そのパンクな佇まいは彼らの人気の源となりました。それもあって、アルバムは全英16位という大ヒットになりました。

 しかし、フィリップは後から入った人です。バンドのサウンドの要はマーティン・ウェアとイアン・マーシュに違いありません。こうなると不協和音が出てくるわけで、結局、このアルバムを最後にマーティンとイアンは脱退してしまいます。

 脱退した彼らは後にヘヴン17として人気バンドとなります。一方、フィリップは二人にロイヤルティーを払ってバンド名を引き継ぎます。このヒューマン・リーグが世界的な大ヒットを飛ばすあのヒューマン・リーグです。

 さて、アルバムですが、面白い曲があります。「ゴードンズ・ジン」です。これはイギリスのジンのCMジングルをアレンジしたものです。そしてミック・ロンソンのカバーもあります。何でもシンセでやっちゃうぞという意気込みを感じます。

 シリアスなインダストリアル・サウンドとポップが同居するサウンドは、ゲイリー・ニューマンの大ブレイクなどもあり、受け入れやすい素地がようやくできていました。先駆者の苦悩はここで十分に報われたわけです。

 ところでフィリップは二人の脱退直後にはインダストリアル全開のシングルをリリースします。しかし、かつてヴァージンに強要されてしぶしぶ出した、ディスコ・ビートに女声ボーカルのシングル路線に戻って大ヒットを飛ばします。なかなか興味が尽きない道行でした。

Travelogue / The Human League (1980 Virgin)