映画「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ」の公開は1984年のことでした。大そう面白かったと思ったのですが、この時見たのは監督セルジオ・レオーネを呆然とさせた大幅カット版です。面白かったと胸を張って言うのも何だか憚られる思いです。

 ロバート・デ・ニーロとジェイムズ・ウッズの謎を残したラスト・シーンは未だ記憶に残っていますし、1920年代のブルックリンを再現した映像も見事でしたし、「ただのギャングスター・ストーリーではない」大作は素晴らしかったと思ったのですが。完全版を見ていないので..。

 そのサウンドトラックはエンニオ・モリコーネが担当しています。彼の数あるサウンドトラック・アルバムの中でも人気の高い「不朽の名作」です。「名曲『アマポーラ』の甘い調べとセンチメンタルな香り漂う魅惑のサウンドトラック盤」なんです。

 レオーネ監督とモリコーネは「夕陽のガンマン」などマカロニ・ウェスタンでもコンビを組んでいます。モリコーネは、「他の監督と比べてレオーネは音楽の重要性をはるかに認めている」と高く評価しています。理想的な関係です。

 モリコーネが本作のレコーディングを開始したのは、主なシーンの撮影が行われる1年半も前のことだったそうです。撮影前に音楽が出来上がっていたことで、「俳優たちは映画のムードやフィーリングを完全に把握した上でセットに臨むことができ」ました。

 映画プロデューサーのアーノン・ミルチャンは「まるで魔法のようだったよ」と驚いています。レオーネにとって音楽は「台詞の一部なんだ。そして多くの場合台詞よりも重要だったりする。音楽はそれだけで完成された手段だからね」と語っています。

 モリコーネはここではストリングスをメインにした落ち着いたテーマ曲から、禁酒法時代の酒場を表現したニュー・オーリンズ・スタイルのジャズまで幅広くて、かつ一貫した楽曲を提供しています。映画そのものであると言えます。

 重要な役割を果たすのが「アマポーラ」です。スペインからの移民ホセ・ラカジェが1922年に発表した甘いポップ・ソングで、これがサウンドトラックの中に見事にはめ込まれて不可分一体です。まるで切れ目が見つかりません。

 モリコーネのオーケストラ以外にクレジットされているのはザンフィルとエドナ・デル・オルソの二人です。ザンフィルはルーマニア生まれのパンフルート奏者で、日本のイージー・リスニング界でも大いに人気です。オルソはモリコーネと長年コラボしているソプラノ歌手です。

 こうしたアクセントをつけながら、ディープなヨーロッパ感覚が横溢します。アメリカを描いているわけですが、かつてのアメリカはヨーロッパからの移民が支配していた国ですから、このテイストがアメリカそのものです。まるで違和感がない。

 サウンドはとても大陸的で懐の深いです。ボートラで「つらい想い」の仮バージョンが収録され、これが本編での広がりのある見事なアレンジになっていくのかと思うとため息がでます。まるで魔法のようです。さすがはモリコーネ。

Once Upon A Time In America / Ennio Morricone (1984 Mercury)