ニュー・オーダーは全英1位をようやく獲得したアルバム「テクニーク」の後、もう解散かと言われながら4年後の1993年に再び全英1位となる「リパブリック」を発表しました。その後は8年間の沈黙です。さすがにもう半分忘れられかけた頃に「ゲット・レディー」です。

 前作もそうでしたが、好きだったバンドが何年もたってアルバムを発表すると、ついつい衝動買いしてしまいます。しかも4年と8年は絶妙の間です。若い頃ならもう世界が変わっているくらいの間隔ですが、こちらも歳をとりましたから。

 さほど期待はしていませんでしたが、アルバムにかけた瞬間、懐かしい空気が部屋に充満してきて、思わず目頭が熱くなりました。ニュー・オーダーは何も変わっていない。聴いている私も若いころから何も変わっていない。そんな気になりました。

 もちろん全英1位コンビとなる前作、前々作あたりのエレクトロニクス全開路線とは随分感触が違うのですけれども、ここから出てくるサウンドは一気に「ロウ・ライフ」の頃まで遡ってニュー・オーダーは何も変わっていないと言わせる迫力があります。

 ベースのピーター・フックによるバンド・サウンドとギターのバーナード・サムナーによるエレクトロニクス路線が拮抗していることがニュー・オーダーの持ち味でしたが、このアルバムでは、かなりバンド・サウンドに比重を置いています。見事なギター・ロックぶりです。

 彼らの場合、群雄割拠のエレクトロニクスに寄り過ぎると、やや分が悪いですから、この選択は正解だと思いました。しかし、ファンの間ではあまり評判がよろしくないようでした。全英1位コンビとは違う路線ですから。

 しかし、私などは「ロウ・ライフ」とダイレクトにつながってしまって、改めて聴き直すまで前の作品との違いを忘れてしまっていました。ニュー・オーダーは終始このサウンドだったと思ってしまったほど、私にとってのニュー・オーダー・サウンドが戻ってきました。

 そこはかとなく美しい曖昧なメロディーと、エレクトロニクスとアナログの間を行き来するダンス・ビート、朦朧としたギターとボーカル。そんな組み合わせがニュー・オーダー・サウンドです。この作品なら「クリスタル」や「60マイルズ・アン・アワー」や「プリミティブ・ノーション」。

 脳内で再生しているといつの間にかよく考えると大して似ていないのに「ブルー・マンデー」や「パーフェクト・キッス」などに変わってしまったりするほどのニュー・オーダー節です。これを彼らの個性と呼ばずして何と呼びましょうか。

 本作にはスマッシング・パンプキンズのビリー・コーガン、プライマル・スクリームのボビー・ギレスピ―とアンドリュー・イネスが一部参加しています。特にイネスのカッコいいオルタナ・ギターはニュー・オーダー・サウンドの異質性を際立たせてくれます。

 一音一音が懐かしく感じますけれども、発表以来何年たっても感じる懐かしさが逆に新鮮です。新しいものは古くなりますが、最初から懐かしいものは古くはならない。そんな逆説を感じます。私にとってはここが魂の故郷なのかもしれません。

Get Ready / New Order (2001 London)