ニュー・オーダーの5枚めのアルバムは初めて全英1位になりました。意外な気がします。何かと話題のバンドでしたから、遅すぎた全英1位です。時は1989年、ハウス・ミュージックは主流になりつつありました。ようやく時代が彼らに追いついたとも言えます。

 このアルバムは結構話題が豊富です。まず同時期に英国で人気を博したザ・キュアーとのパクリ合戦です。2曲目の「オール・ザ・ウェイ」のコード進行はザ・キュアーの楽曲を模したものです。これは報復だとニュー・オーダー側は述べています。

 そして何とお父さんお母さんのアイドル、ジョン・デンバーから「ラン」のギター・リフがそっくりだと訴えられ、結果、作曲クレジットにデンバーが付け加わりました。こういう話が出てくるとは、ニュー・オーダーも人気者になったものです。何だか面白いです。

 さて、本作品はスペインのイビザ島で制作されています。何かと話題のイビザ島です。当時はレイブと呼ばれるダンス・イベントの総本山のようになっていました。夜な夜なエレクトロなダンス・ミュージックで盛り上がっていた地中海の拠点です。

 英国バースにあるピーター・ガブリエルのリアル・ワールド・スタジオとの2択でしたが、プールがあるということでイビザ中心になりました。もうパーティーに行く気満々です。案の定、イビザにいる間中、パーティーに明け暮れていた模様です。

 アルバム制作はスタジオに四人が揃うわけではなく、それぞれがばらばらにスタジオ入りして何かしら手を加えていくという、彼らにしては初めての手法を余儀なくされていきました。結果、エレクトロニクスに寄ったかというとそうでもありません。

 ピーター・フックはシークエンサーとの戦いだったと述懐しています。ゴリゴリとベースをねじ込んでいったのでしょう。前作同様エレクトロニクスとバンド・サウンドが併存していますが、どちらも少し相手側に寄っています。

 それが程よいバランスを作っていったのでしょう。もちろん初期に比べるとどんどんエレクトロニクス寄りではあるのですが、シーンがエレクトロニクス中心になってきている状況下では比較的ロック寄りだと受け止められたわけです。

 全体にサウンドは軽めのミックスがなされています。ずしんずしんと響くビートというよりも、軽やかなビート感覚。キラキラした音を多用しているからそう感じるのかもしれません。ある意味ではとても分かりやすいサウンドです。

 ダンス側からすると、実験的なサウンドが花開き始めたシーンの中にあっては先を走っているわけではなく、レトロなロック感覚が受けていました。ただ、ロック側から眺めると程よく最先端にいます。このせめぎ合いとバランスが全英1位に結果したのでしょう。

 スティーヴン・モリスは「最後の登校日のような雰囲気」があると言っています。バーナード・サムナーのエレクトロニクス路線とフックのバンド路線はさすがにここでのバランスが限界でした。ニュー・オーダーの期末制作はぎりぎりのところに立つ傑作となりました。

Technique / New Order (1989 Factory)