ファクトリー・レコードの番号200を付されたニュー・オーダーのベスト・アルバムです。シングルはすべて末尾が3、アルバムは50、75、100、150と来て200。マネージャーの歯医者通いにまで連番を付して、キリ番を追及した遊び心というものです。

 この作品はニュー・オーダーが発表したシングル曲すべてを発売順にコンパイルした作品です。ヴィニールでは全12曲の2枚組でしたが、CDではこの12曲の他に、シングルのB面曲から12曲を収録したディスクとの2枚組です。

 手元にあるのは日本コロンビアから発売された1987年のオリジナルCDです。当時はまだCD時代に完全には移行しておらず、CDは高価でした。この2枚組は何と5000円です。今時、国内アーティストでもそこまではとらない。それに初期CDですから音がよろしくない。

 と文句ばかりを垂れていますが、この作品は当時快挙でした。なかなか手軽に聴けなかったニュー・オーダーのシングルが全て揃うわけですから興奮しないわけがない。しかも貴重なカップリング曲まで。丁寧な仕事ぶりに目が眩んだものです。

 しかも1986年の「ステイト・オブ・ザ・ネーション」は「PCMの総本山」とされる日本コロンビアのスタジオで録音されています。初来日時に録音されていたもので、日本コロンビアさんの入れ込みようが良く分かります。

 アルバムですが、淡々と時系列で並べられているので、ジョイ・ディヴィジョンの影から次第に抜け出して、独自の世界を作り上げていく過程がよく分かります。そもそも最初の2枚のシングルはジョイ・ディヴィジョン時代の楽曲ですし。

 特にカップリング曲の「イン・ア・ロンリー・プレイス」など、ジョイ・ディヴィジョンそのものかと思うくらいです。それが、1枚ずつ顕著な変化を見せながら分水嶺となった「ブルー・マンデー」に行き着く。イアン・カーティスに捧げた曲が新たな旅立ちとなったわけです。

 そこからは自信に満ちた展開が続きます。12インチ・シングルへのこだわりも堂に入ったものとなり、もはや業界標準のプラクティスとなっていきます。多くがそのリミックスとなっているディスク2の展開も当時は斬新でした。

 小野島大氏はこの作品を、「秀逸なるドキュメント」として、「ここからアシッド・ハウスが生まれ、マッドチェスターが生まれ、90年代以降の新しいダンス・ミュージックが導き出されたのだ」と大絶賛です。若干言い過ぎですが、後から振り返ると確かにそういう面があります。

 「同時にメランコリックなポップ・ソングとしての圧倒的な鮮度と完成度をも兼ね備えた楽曲の数々は、いま聴いてもまったく古びていない」。こちらの側面が彼らの人気の大きな部分でした。「ビザール・ラヴ・トライアングル」がメランコリーの筆頭でしょうか。

 当時、英国の新聞に「なぜにニュー・オーダーとペット・ショップ・ボーイズだけがエレクトロニクスに人のぬくもりを込められるのだろう」と書かれていたことが忘れられません。どこかがちょっとだけ違う。ニュー・オーダーの軌跡を振り返るには最高の作品です。

参照:「ロックがわかる超名盤100」小野島大

Substance 1987 / New Order (1987 Factory)