ニュー・オーダーの4作目は何やら金属に包まれて発表されました。チタン亜鉛合金のようで、これは屋根によく使われる素材です。ファクトリーのレコードを手掛けるピーター・サヴィルのジャケットにはいつも驚かされます。

 本作品は前作から1年ちょっとの間を経て発表されています。成功を収めて忙しくなった彼らにしてみれば比較的短いインターバルです。ツアー向きではないバンドなのに、ツアーに明け暮れた生活を送ってストレスも溜まっていたのでしょう。

 この作品はアイルランドのダブリンで制作されています。地元だと色んな人が顔をだして、落ち着かないことから、海外に出た模様です。成功したらしたで余計な苦労がつき纏うものです。しかも彼らはいつまでも悲劇のバンド扱いですし。

 この作品はロック・サイドとディスコ・サイドに分けられています。A面がロック、B面がディスコです。ギターのバーナード・サムナーがギター中心のロック・サイドを押しているのではないところが面白いです。彼はディスコ、ベースのピーター・フックがロック・サイドです。

 この二人がそれぞれエレクトロニクスとバンド・サウンドを指向していることが、ニュー・オーダーの強みと言えます。二つのベクトルがうまく絡み合って独特のサウンドを生み出しているわけです。それを今回、あえて二系統に整理してみたという趣向です。

 ただし、そこまではっきりと分かれているわけではありません。知らないで聴いていた私などは恥ずかしながら気づきませんでした。言われてみればなるほどとは思いますが、彼らのサウンドは不思議に個性が際立っているのでその中での相違は気にならない。

 それよりもサウンドの質感がこれまでと少し違います。何でも「トランスダイナミック」を買ったからだとドラムのスティーヴン・モリスが語っています。どうやらオーディオ&デザイン社のプロセッサーのことだと思われます。「すべてがとにかくハードに聴こえるんだ」。

 バーナードも気が狂うほどオーバーダブを重ねて、分厚いサウンドになったと言っています。ギターの音もこれまでのまろやかな音ではなくて、キンキンのハードなデジタル・サウンドに寄っています。この質感が前作との最大の違いでしょう。

 アルバムからは「ビザール・ラヴ・トライアングル」のヒットが生まれました。アメリカでは彼ら最大のヒットです。ディスコ・サイド収録の曲で、これまでの彼らのシングル曲に比べると毛色の変わった甘い曲です。日本でも意外にファンは多い。

 この曲がヒットしたのはマドンナとの関わりで知られるシェップ・ペティボーンのリミックスのおかげでもあります。この頃の彼らは、「ブルー・マンデー」をクインシー・ジョーンズがリミックスしたり、米国市場を意識しまくっています。ちなみにこれ、阿波踊りみたいな声、入ってます。

 彼らはこのアルバム発表後に再び日本にやってきます。今回は体調も良かったようですが、相変わらず下手だと言われてしまいました。彼らの先見性が理解されるまでには、もう少しだけ時間がかかりました。

Brotherhood / New Order (1986 Factory)