シタールの巨匠ラヴィ・シャンカールは「アヌーシュカの父親」と呼ばれる日が来ることを待ちわびていました。期待に応えて、アヌーシュカ・シャンカールは「ラヴィ・シャンカールの娘」から一人前のアーティストに成長しました。「ノラ・ジョーンズの妹」だったりもしますが。

 1981年にロンドンで生まれたアヌーシュカは9歳の頃から父親であるラヴィ・シャンカールの元でシタールを学びました。そうして13歳の時には早くもシタール奏者としてデビューを飾っています。インド古典音楽の伝統に沿って階段を上がってきたわけです。

 最初のリーダー・アルバムは1998年の「アヌーシュカ」です。20歳になる頃には3枚のアルバムを発表し、インド人女性として初めてグラミー賞のワールド・ミュージック部門にノミネートされました。順調な成長ぶりにお父さんも目を細めたことでしょう。

 ここまでのアルバムは古典音楽を演奏したものでした。彼女はインド古典音楽の伝統を正しく受け継ぐシタール奏者ですから。幸いなことに私は父娘が共演するステージを目撃しています。二人のシタールから紡がれる親子の絆は美しいものでした。

 アヌーシュカは子どもの頃から父親とツアーに明け暮れ、その傍らで学校にも通うという忙しい生活を送っていました。休みが必要だと感じた彼女は2004年をオフの年に決めました。しかし、「いなくなろうと思っていたのに、なんてこと、アルバムをつくっちゃったのよ」。

 それがこのアルバム「ライズ」です。このプロジェクトは、最初はレコードにすることなど考えずに、ライ・クーダーとの共演でも知られるインド式スライド・ギターのヴィシュワ・モハン・バット師とのセッションを録音したことから始まった模様です。

 さらに古典音楽の領域をはみ出し、心の赴くままに異なる分野のアーティストとも共演していった結果生まれたのがこのアルバムなのでしょう。インド古典音楽とさまざまな音楽の見事なフュージョンによってコンテンポラリーなアルバムが誕生しました。

 アヌーシュカが相棒に選んだのは、インドのテクノ・ユニット、ミディヴァル・パンディッツのゴーラヴ・レイナです。ゴーラヴは本作品のプログラミング、ミックス、エディット、そしてエンジニアリングを担当しています。片割れのタパン・ラージも一曲だけ参加しています。

 参加しているアーティストは、ラジェンドラ・プラサンナやタンモイ・ボースなど古典音楽の人もいれば、ケルト音楽のバリー・フィリップスや南米のアーティストもいます。東欧や南アフリカの楽器も使うなど、とても自由度が高いです。

 アヌーシュカはここではシタールの他にキーボードを演奏しています。曲によってはあえてシタールを使っていません。サバティカルはリスクをとる勇気を与えたようです。しかし、この自由さがインドらしさを際立たせてもいます。コンテンポラリーなインド音楽として大成功です。

 ボートラではテクノ・ビートを加えたリミックスが披露されます。それと対比させると、本編の見事なインドっぷりが良く分かります。朝のラーガから夜のラーガへと流れるように配置された楽曲たちがインドの一日を歌っています。とても気持ちの良いアルバムです。

Rise / Anoushka Shankar (2005 Angel)