CDを取り外すとグレッグ・オールマンの錆色の肖像画が目に入ります。穏やかな若者の顔です。これはグレッグ自身の血を使って描かれた絵です。描いたのはグレッグが気に入っていたアウトサイダー・アートのヴィンセント・カスティグリアです。

 サザン・ロックを切り開いたグレッグ・オールマンが天に召されたのは2017年5月のことでした。グレッグは最後のアルバムを若き日の兄が活躍したマッスル・ショールズのスタジオで録音していました。その完成した姿がこのアルバム「サザン・ブラッド」です。

 グレッグ自身の血、兄デュアンゆかりの地、アルバムの内容、すべてをつなぎ合わせるタイトルとして「サザン・ブラッド」ほど相応しいものはありません。グレッグの娘レイラに天から降りてきたタイトルだそうです。

 アルバム・セッションは2016年3月、すでに病に侵されていたグレッグの体調を考えて一日4時間のペースでゆっくりとレコーディングが行われていきました。プロデュースはアメリカン・ミュージック・アウォードで知り合ったドン・ウォズです。面白い取り合わせです。

 セッションから1年以上かけてアルバムは完成しています。体調が許さないグレッグでしたが、最後の夜も最新ミックスを聴いて目を閉じたとのことで、グレッグの意を十二分に汲んだアルバムになっています。

 演奏しているのはスコット・シャラードを筆頭に、前作「バック・トゥ・メイコン」のライブで演奏していたミュージシャンが中心になっています。大らかなサザン・ロックのサウンドはここでも健在ですが、今作は胸を詰まらせるものがあります。

 冒頭のオリジナル曲「マイ・オンリー・トゥルー・フレンド」のイントロが鳴りだした途端、このアルバムが特別のアルバムであることが分かります。遺作であると知らなかったとしても分かるただならぬ雰囲気です。バンドの心は一つになっています。

 収録された他の曲はすべてカバー曲です。それもブルース曲に混じって、ボブ・ディランの「ゴーイング・ゴーイング・ゴーン」やグレイトフル・デッドの「ブラック・マディ・リヴァー」、リトル・フィートの「ウィリン」など、意外な曲が含まれています。

 これらの曲について、ドン・ウォズは「彼について知るべきことと、人生を終える時に彼が感じていたことの全てが、この10曲の歌詞には含まれている」と書いています。グレッグのボーカルはさらに深みを増していて、胸に込み上げるものがあります。

 最後の曲ジャクソン・ブラウンの「ソング・フォー・アダム」では、グレッグは兄デュアンを想い、♪やっぱり彼は歌の途中で歌うのを止めてしまった気がするんだ♪という一節で声を詰まらせ、次の二行を歌えていません。この歌に加えられたブラウンのボーカルも悲痛です。

 デュアンとグレッグ、オールマン兄弟の物語はここで幕を閉じました。幕引きに立ち会ったドン・ウォズやスコット・シャラードを始め全ての関係者が最高の形でグレッグを見送るべく心を一つにしています。涙なしには聴けない作品です。

Southern Blood / Gregg Allman (2017 Rounder)