「権力の美学」という邦題はどうにも頂けませんが、意表をついた静物画によるジャケットに包まれたニュー・オーダーの二作目は傑作になりました。前作とはまるで異なる自信に満ちた音がいきなり流れてきます。

 この作品のわずか2か月前に発表された12インチ・シングル「ブルー・マンデー」がニュー・オーダーの運命を変えました。イアン・カーティスが亡くなった月曜日のことを歌った歌が、バンドをジョイ・ディヴィジョンの呪縛から解き放ちました。

 発表当時は、その喪失の物語のみが前面に出てきていたので、この曲の音楽的な意味合いを十分に消化できていませんでした。後から振り返ると、ポピュラー音楽の歴史を塗り替えた一枚であることが分かります。

 このアルバムはその「ブルー・マンデー」の延長線上にあるサウンドで、ふっ切れたニュー・オーダーの面目躍如たる自信作になっています。本作をベストにあげる人も多いと言います。後のニュー・オーダーがポップすぎると思う人は恐らくそうなんでしょう。

 彼らはニューヨークで録音していた時期のある夜、あるクラブで神が降りてきました。その時にはクラブ向けのトラックを制作していなかったにもかかわらず、自分たちの音楽がクラブで流れてきたらどんなにかいいだろうと、閃いたのだそうです。

 ちょうど1982年5月には彼らの所属するファクトリー・レコードがイギリスに本格的なクラブ、ハシエンダをオープンしていました。場所も整い、ニュー・オーダーの進むべき道は決まりました。行くところまでエレクトロニクス・サウンドを追求しようという覚悟が出来ました。

 ジリアン・ギルバートによれば、この頃、彼らがよく聴いていたのが、エンニオ・モリコーネのマカロニ・ウェスタンや、「時計仕掛けのオレンジ」のサントラ、そしてクラフトワークなどでした。これまでよりロックから遠ざかることで方向性がより鮮やかになります。

 バーナード・サムナーとスティーヴン・モリスがまずシンセやドラム・マシーンで音をプログラムし、それにエンジニアのマイケル・ジョンソンとピーター・フックがプロダクションを施し、シンセ、ギター、ベース、ドラムをオーバー・ダブする手法で曲が作られていきます。

 今では当たり前の手法ですが、当時、ロック系のアーティストがこういうサウンド作りをしたことはほとんどなかったので、極めて新鮮でした。エレクトロニクス一辺倒ではなく、ちゃんとロックにもなっているところが彼らのユニークさでした。さらにしっかりクラブ系。

 例えば、「ユア・サイレント・フェイス」などはもろにクラフトワークがかっていますけれども、しっかりとリズム・セクションがロック寄りになっています。このバランスが極めて優れていました。甘すぎず、突き放しすぎず。クールに踊れるサウンドです。

 ジョイ・ディヴィジョンを引きずるマーティン・ハネットと別れ、セルフ・プロデュースとしたことも正解です。自信に満ちた堂々たるサウンドの展開に当時は驚いたことを覚えています。ここからは一歩もぶれないニュー・オーダーの快進撃が続きます。

Power, Corruption & Lies / New Order (1983 Factory)