天才少女のソロとしての処女作ではありますが、発表当時はほとんど注目されず、大ブレイク後に再発されて大ヒットしました。分かりやすい便乗商法に引っ掛かったのはどいつだ~、私だよ。と今や懐かしイニシオカスミコになってしまいます。

 キュービックUは宇多田ヒカルが本名でブレイクする以前に名乗っていたステージネームです。もともと宇多田ヒカルと両親で米国在住中にU³なるユニット名を名乗り、アルバムを発表しています。しかし、タイプしにくいからでしょう、三乗を展開してキュービックUになります。

 そして、小文字のcubic Uは三人組、大文字のCubic Uはヒカルのソロと使い分けすることになります。その大文字のCubic Uによるソロ・デビュー作が本作品です。発表したのは1998年1月、宇多田ヒカル15歳の時です。何と早熟な。

 アルバム・デビューは本作品ですが、マキシ・シングルはすでに前年に米国のレーベルから発表されています。14歳。うーん。凄い話です。そして本作からのシングル・カットはバカラックの「遥かなる影」で、レニー・クラビッツが一言書いているそうです。破格です。

 本作品では、父親がエクゼキュティヴ・プロデューサーを務めていますし、両親が作曲した曲も2曲収録されています。U15なだけにご両親全面参加の下で制作されました。大事にされた娘さんであることが良く分かります。

 アルバムは3人の米国人プロデューサーが手掛けています。ボーイズ・II・マンなどを手掛けたバート・プライス、カナダのレゲエ野郎スノウの「マーダー・ラヴ」などを手掛けたマイケル・ワーナー、ブッカーTの息子、ブッカー・T・ジョーンズです。

 いずれのプロデューサーもこの当時米国で流行していたR&Bスタイルを手堅く踏襲して、宇多田ヒカルの大人びてはいるもののやはり子どもらしいところもあるキュートなボーカルを際立たせています。コーラス隊の活躍もやけに目立ちますが。

 全11曲にはバカラックの1曲を除けば、家族での2曲も本人関与とすると、すべての曲作りに本人が係わっています。本人曰く、「自分の音楽を言葉で説明するとすれば、ちょっぴりポップのテイストが入ったR&Bっていう感じかな」。

 「私にとって、作曲は聴くこととレコーディングする上での一つのプロセスなの。作曲を始めた頃はすでに出来上がっているトラックを聴きながら考えたりしたけど、最近はコード・アレンジメントから書き始めたり、自分のピアノを使って作曲したりしているわ」。若さが眩しい。

 「遥かなる影」には驚かされますが、基本的には本人が言う通り、R&Bが基本で、ヒップホップやファンク、バラードなど手堅くまとまっています。後の宇多田ヒカルを考えずに、まったりと聴いている分には気持ちのいいアルバムです。さすがは天才です。

 しかし、アイドル文化のない米国のプロデューサーと日本のティーネイジャーの女の子とはあまり相性が良くありません。同世代のスピードなどと比べると良く分かりますが、十代女性の元気を形に残すことは米国人には無理です。弾けるには日本での一年が必要でした。

Precious / Cubic U (1998 東芝EMI)