多くの人が指摘するところですが、このジャケットはとにかく素晴らしいです。「ニューヨーク・ヘラルド・トリビューン」等にイラストを提供していた有名なイラストレーターのサム・ノーキンが描くキャブ・キャロウェイは本人の魅力を余すところなく伝えています。

 この作品はエピック・レコードから1955年に発表されたキャロウェイ初のLP作品を復刻したものです。日本でも1958年に発売されています。キャロウェイの作品は日本でも戦前には数多く発売されていますから、人気があったのでしょう。

 しかし、私がキャロウェイのことを知ったのは1982年のことです。何で覚えているかと言えば、その年に創刊された「レコード・コレクターズ」で初めて知ったからです。創刊号の表紙がキャロウェイでした。

 1907年生まれのキャブ・キャロウェイはハイスクールを卒業すると、姉を追って芸能界に入り、1928年には一流ジャズ・バンドのザ・ミズーリアンズに加入しました。すると、なぜかリーダーに抜擢されて、このバンドをキャブ・キャロウェイ楽団としてしまいます。

 1930年にはデューク・エリントン楽団が出張している隙にかの有名なコットン・クラブに出演すると、大変な評判を得てしまいます。その後、別の劇場に出るとそこでも大人気となり、両クラブの抗争が勃発し、コットン・クラブのオーナーが射殺されル事件まで起きました。

 それはともかく、1931年2月からは正式にエリントン楽団の後釜としてコットン・クラブに収まります。この頃からレコード録音も開始しており、日本ではエリントン、グッドマンに次ぐ大きな扱いで紹介されています。ビッグ・バンド・ジャズとしては最高の扱いでしょう。

 キャロウェイは後に映画「ブルースブラザーズ」でもその勇姿を見せますが、その人気の源泉は激しく踊りながら指揮をしたり、♪ハイディハイディホー♪などと叫び歌うという芸能スタイルにあります。ジャズが芸能と不可分であった幸せな時代の名物男です。

 それが日本のジャズ界では、戦後、シリアスなモダン・ジャズによって片隅に追いやられてしまっていました。ですから、「レコード・コレクターズ」で初めて彼を知り、その作品を聴いた時には嬉しい驚きでした。このジャズの方がロック・ファンには馴染みやすいです。

 本作品は初のLPということで、1932年から1945年まで足掛け14年間に録音された楽曲12曲から編まれたコンピレーションになっています。さらに本CDでは1931年から34年までに録音された5曲のボーナス・トラックが収録されています。

 キャロウェイの代表作はもちろん♪ハイディハイディホー♪の「ミニー・ザ・ムーチャー」です。何度も録音されていますが、ここには1942年版が収録されています。彼のような音楽のスタイルを指すジャイヴを題名にした「ジャンピン・ジャイヴ」も有名曲です。

 さすがに録音が昔の仕様なので、頭の中で補正しないと臨場感が出てきませんけれども、黄色くなった白黒映像を脳内で再生しながら聴いていると次第次第に当時のコットン・クラブへとタイム・スリップしそうです。芸能感覚の濃い素敵なジャズです。

Cab Calloway / Cab Calloway (1955 Epic)