アインシュトュルツェンデ・ノイバウテンのセカンド・アルバムはイギリスのレーベル、サム・ビザールから発表されました。ファースト・アルバムの評判はドイツよりもむしろイギリスでの方が上々だったということです。当時のシーンからすれば驚くことではありません。

 そのため、日本でも輸入盤の入手が容易になり、噂に聞くばかりだったノイバウテンの姿が明らかになってきました。さらにさらに、このアルバムは日本盤まで出されました。「患者O.T.のスケッチ」。驚くべき展開にお約束通り驚いたものです。もちろん買いました。

 前作でのノイバウテンは3人だけのクレジットでしたが、この作品ではブリクサ、ウンルー、アインハイトに加えて、何でも楽器をこなすまだ10代だったアレキサンダー・ハッケ、イギリス人のベーシスト、マーク・チュンを加えた5人組になっています。黄金期のラインナップです。

 さらにジョイ・ディヴィジョンのエンジニアをやっていたジョン・カフェリーもクレジットされていますが、こちらはどうやら正式メンバーではなく、イギリスでの録音に際して参加したゲストのようで、ミックスを一部担当している模様です。

 この5人組のノイバウテンは、前作発表後に「ノー・ニューヨーク」でお馴染みの過激な女性アーティストのリディア・ランチとバースデイ・パーティのローランド・ハワードをゲストに迎えたシングルを発表しています。一連の人脈の始まりです。

 ブリクサは本作発表後、バースデイ・パ-ティの作品にギターで参加し、それが縁で同バンドから独立したニック・ケイヴ&ザ・バッド・シーズに参加することになります。ドイツ、オーストラリア、イギリス、アメリカにまたがる華麗なるポスト・パンク人脈です。

 本作のタイトルの「患者O.T.」はオーストリア生まれの画家オズワルド・チルトナーのことです。オズワルドは第二次大戦で捕虜になり、精神を病んで精神病院で暮らしながら、そこで絵の才能を認められたアーティストです。

 同様に精神に障害を持ったオーストリアのアーティストの集団を代表する画家としても知られています。その作品を世に紹介した医師の本のタイトルがアルバム・タイトルに採用されました。同名の曲も収録されています。♪私は世界の涯で新しい太陽を待っている♪。

 本作品は前作に比べるとかなり音楽的になりました。メタル・パーカッションも使われているものの、目立つのはドローンとボーカルです。ブリクサの描き出す世界はより文学的になりました。歌詞も独英両言語で印刷されています。

 さらに彼らの代表曲となる「アルメニア」では、「アルメニア民謡から引用されたというむせび泣くように悲痛な旋律」を使った曲で、ブリクサの詩は♪火山はまだ活きているか♪と問いかける内容です。極めて文学的。

 前作のストレートな過激サウンドから、より沈潜してエネルギーを増したサウンドに変化してきました。息苦しいまでのシリアスさもさらにその度を強め、思わず正座してしまう迫力です。じっくりと背筋を凍らせたい人にお薦めです。

Zeichnungen des Patienten O.T. / Einstürzende Neubauten (1983 Some Bizzare)