松本隆作詞活動45周年を記念する超豪華トリビュート作品です。発売は2015年、銀座のヤマノ楽器で大々的なキャンペーンをやっていました。店頭で手に取って、参加者のあまりの豪華さに速攻でレジに持って行ったものです。

 その豪華さの意味合いが少し普通と違います。本作品は2枚組になっており、最初の1枚は普通というと変ですが、松本隆の楽曲をさまざまなミュージシャンがカバーするトリビュートです。2枚目が凄い。歌手もいますが、基本は俳優さんによる朗読集です。

 松本隆の詩を文学的に鑑賞してみようという試みです。参加しているのは、行きますよ、男性は斎藤工、東出昌大、山田孝之、井浦新、加瀬亮、永山絢斗、リリー・フランキー。最後は松本自身が朗読しています。

 女優陣がきゅんきゅんします。宮崎あおい、夏帆、有村架純、広瀬すず、中川翔子、太田裕美、小泉今日子、斉藤由貴、薬師丸ひろ子。後半の方々には驚きはありませんが、前半の方々の名前を見た瞬間にレジに向かったようなものです。

 朗読というのはとても新鮮です。特に役者さんの朗読は素敵です。耳元で鳴らしていると身悶えしてしまいます。歌詞はそれぞれの演者が選んだのだそうです。皆さん一様に詩を読み込んで、その世界を解釈して演じています。

 有村架純は小泉今日子の「魔女」を「『何やってるんだろ私』って我に返る女性の気持ちで読みました」。広瀬すずは「いまの私たちにはない手触りというか、感覚だなって」。夏帆も含めて若い女優さんのコメントには考えさせられます。

 松本隆の描き出す世界は、日本語ロックに燃えつつ、社会との距離をはかっていたはっぴいえんど時代から、アイドル歌謡に至るまで、私の世代にとっては伴走者であり、普遍的な世界のはずでした。若い女優さんのコメントにははっとさせられるわけです。

 音楽サイドは全部で11曲、サウンド・プロデュースはリトル・クリーチャーズなどで知られるベーシストの鈴木正人です。それぞれが手練れのアーティストばかりとのコラボになっていて、何とも豪華な世界が展開します。ザ・トリビュートです。

 1曲スペシャル・トラックが収録されています。細野晴臣が1970年代半ばに完成しないまま放置していた曲を引っ張り出して完成させ、そこに松本が新たに詩を付けました。そして、鈴木茂がギター、細野が歌とベース、松本がドラム、はっぴいえんどです。曲は「驟雨の街」。

 さらにプロジェクトは豪華で、是枝裕和監督による朗読の撮りおろし「風街で撮る」、宮藤官九郎との対談、解説にショートストーリー。イベントまで開催されています。いろんな角度から松本隆の世界を感じることができる仕掛けになっています。

 大ヒット曲だけで構成することも簡単だったでしょうが、こうして演者にまかせて地味ながら深い曲が選ばれているところがいいです。そして歌うのではなく朗読。俳優陣の底力に存分に感嘆しつつ、歌詞の力に思いを馳せることを強いる面白い企画でした。

Kazemachide Aimashou / Various Artists (2015 ビクター)