「おみやげにピッタリ!」。なんちゅうキャッチ・コピーでしょうか。外国人に焦点を絞った日本の音楽集です。邦題は素っ気なく「日本の音」ですが、英語タイトルを直訳すると「日本の伝統音楽の美しい音」です。こちらの方がよほど分かりやすい。

 ありそうでなかったコンピレーションです。日本コロムビアさんがお土産用に英文解説を添付して発表しました。時は2016年2月、前年の2月は中国の春節で「爆買い」が頂点を極めた時期でした。西洋人には受けそうですが、中国人にはどうなんでしょう。これ。

 レーベルの意図はどうであれ、このコンピレーションはなかなか楽しいです。日本の伝統音楽の中でも、やたらと耳に馴染んでいる大ヒット曲ばかりをとりあげて編まれたアルバムですから、外れがない。どれもこれもミリオン・セラーと言ってもおかしくない曲ばかりです。

 中でもお正月には欠かせないお箏の調べは「春の海」と「六段」というウルトラ・スタンダードです。「春の海」は1930年に宮城道雄が作曲した箏と尺八による名曲中の名曲です。穏やかな新春に相応しい一曲です。

 対する「六段」は八橋検校作曲。検校が亡くなった年にバッハが生まれるという時代感覚です。52拍子という恐ろしい拍子の名曲で、ここでは初代米川敏子による演奏で聴かせます。箏には珍しい艶っぽい湿ったサウンドにブルースを感じて感動しました。これは素敵な箏。

 純粋器楽として尺八の「鹿の遠音」も収録されています。琴古流の流祖黒沢琴古が虚無僧から伝授されたと伝わる18世紀の曲です。乾いた弦楽器の音とは対照的な湿った尺八の音は日本の風土にピッタリな気がします。

 このアルバムには歌がありません。日本の伝統音楽は多くが歌とともにあるので、むしろ新鮮に響きます。古謡とされている「さくらさくら」、「お江戸日本橋」、民謡のカテゴリーにある「黒田節」も歌無しでの収録です。ついつい口ずさんでしまいますが。

 さらに、このアルバムには正統派雅楽の「越天楽」と、祭囃子の「お神輿囃子」や「寿獅子」が共存しています。芸術音楽と民俗音楽の併存ですが、「越天楽」も10世紀半ばに民謡を元に日本で作曲されたらしいですから、根っこは同じです。何という時間軸でしょう。

 歌舞伎からは「勧進帳」が選ばれました。ただし、これも長唄は入っておらず、演奏だけです。♪いよーっ♪は入っていますが。初演は1840年ですから、江戸時代でも天保年間、もはや意外と新しいと思ってしまいます。

 最後のしめは「津軽じょんがら節」です。津軽三味線は東北で独自に発達した楽器で、「明治以降、時代とともに節回しが繊細になり、ユリも増え、三味線の技法も進歩して、きかせる民謡にな」ったそうです。日本の伝統音楽界のハード・ロックのような位置づけでしょう。

 おみやげに最適かどうかは別にして、日本の伝統音楽に思いを馳せる入門編としては最適です。その意味では、次に聴くべきアルバムを紹介しておいていただけるともっと良かった。ともあれ、お正月にピッタリな作品として、一家に一枚あっても良いアルバムです。

Beautiful Sound of Japanese Traditional Music / Various Artists (2016 日本コロンビア)