「心の赴くままに描き上げた珠玉のドラマ。歌に人生を織り込めた男、ポール・ヤング、待望のセカンド・アルバム」です。ニュー・ウェイブ風の髪型ではありますが、正統派ボーカリスト、ポール・ヤングのセカンド・アルバムはまさに待望されていました。

 ポールはストリート・バンド、そしてQティップスなるバンドを経て、1983年に大手CBSレコードから発表したソロ・デビュー作品が破格の大ヒットを記録しました。全英1位はもちろんのこと、2年近くチャート・インするロング・セラーでした。

 それから1年半、待望の二作目です。発表当時の日本盤では、当時すでに御大だった湯川れい子を始めとする4人もの評論家がライナーノーツを書いています。それも中川五郎などパンク/ニュー・ウェイブ系ではない人が中心です。

 湯川さんの言葉、「ここ数年来の軽調の流行の中では、決して聞く事の出来なかった感動の世界がここにはあるのです」が当時の空気を最もよく伝えています。最近の例で言えば、アデルの登場に近い受け止められ方です。

 パンクは下手くそだし、ニュー・ウェイブは奇を衒い過ぎていると感じていた大人の洋楽愛好家の皆様の琴線に触れる、ソウルフルでエモーショナルな歌手の登場です。オーティス・レディングやサム・クック、マーヴィン・ゲイなどの名を挙げる歌手ですから。

 ニュー・ウェイブ調のルックスですが、一周回って見事な堂々たるソウル歌謡です。前作はアメリカ市場攻略はなりませんでしたが、満を持してはなった本作からは、ホール&オーツのカバー「エヴリタイム・ユー・ゴー・アウェイ」が全米1位を獲得しました。

 前作はほとんどがカバー曲でした。本作でも、ホール&オーツを始め、トム・ウェイツやメンフィスのハイ・レコードからアン・ピープルズなど、渋い選曲のカバーが6曲。そして自作曲が前作の2曲から5曲へと増加しています。

 しかし、ポールはあまり自作曲へのこだわりはなく、素材となりそうな曲を自作曲も含めて並べて、その中から曲を選んでいくそうです。ザ・シンガーです。演奏も80年代的ではありますが、極めてオーソドックスで、とにかくボーカルを立てることに徹しています。

 湯川さんはビートルズ、デヴィッド・ボウイ、マイケル・ジャクソン、フリオ・イグレシアス、プリンスと並ぶオーラを感じています。イギリス物ではヴァン・モリソンくらいしか比肩する人がいないとまで。時代を感じさせないザ・ボーカリストです。

 しかし、ポール・ヤングはそこに並べたアーティストのようにはなりませんでした。精力的なライブは行っていたものの、どうやら喉に問題を抱えていたようです。そうだとするとこんなに残念なことはありません。味のある声なのに。

 「エヴリタイム・ユー・ゴー・アウェイ」はブルー・アイド・ソウルとしては先輩にあたるダリル・ホールの熱唱と比べると、好みがわかれるところでしょうが、私はポール・ヤングの転がる声と落ち着いた歌唱の魅力が声の方が好きです。もっと活躍してほしかった。

The Sceret of Association / Paul Young (1985 CBS)