まるで小林幸子か美川憲一か。10頭身の姿で遠い宇宙の惑星に一人佇んでこちらを眺めているのはガイ・ス・アクヨル、トルコの女性歌手です。アルバム・タイトルは「ホログラム帝国」、確かにジャケットの色合いはホログラムの匂いがいたします。

 中東はアラブ、ペルシャ、トルコのせめぎ合いです。その一つトルコ系民族は、中央アジア五か国のうち、ペルシャ系のタジキスタンを除く4か国に広がっています。シルクロードの国々は実はトルコ系であったということです。

 そうなると俄然トルコは、アラブやペルシャに比べて日本に縁が深いことになります。実際、トルコは親日的ですし、近しいものを感じないわけにはいきません。トルコの大衆音楽も小林幸子というわけではありませんが、少し日本に近い気がします。

 ガイ・ス・アクヨルは1985年にイスタンブールで生まれたシンガー・ソングライターで、お父さんのムザッフェル・アクヨルは有名な画家です。お父さんは自分の絵に詩文を添えるのが大好きで、本作の「モナ・リザ」の歌詞はその一つだそうです。

 彼女は子どもの頃にグランジに多大な影響を受けました。10歳の頃にニルヴァーナから入って、ジョイ・ディヴィジョン、さらにはレッド・ツェッペリンへとロックの歴史を遡り、15歳の頃に自国トルコのアナドル・ロックに感銘を受けるに至ります。

 アナドル・ロックとはアナトリア大陸のロックという意味で、60年代から70年代に西欧のロックとトルコの伝統音楽を見事に融合させたロックだということです。彼女が特に名前を挙げているのはエルキン・コライ。そのうち聴いてみようじゃないですか。

 アスクルは2014年に西洋人のトルコに対する偏見を逆手にとったアルバム「ラクダと暮らして」でデビューすると、ドイツの刺激的なレーベル、グリッタービートのオーナー、クリス・エックマンの目に止まり、セカンド・アルバム「ホログラム帝国」発売と相成りました。

 トルコはクーデター未遂もあって、一層政権がややこしいことになっていますから、「何かに対してプロテストするような曲を書くと投獄されてしまう可能性もある。そんなひどい状況から逃れるには宇宙だと」考え、「ホログラム帝国」に住もうと呼びかけます。

 トルコの音楽を掘り下げた音楽で、「ウードやラマダンドラムなどの伝統楽器を使っているし、ヴァイオリンやヴィオラなどの楽器も弾き方がトルコふうなの。まっすぐ弾くのではなくうねるようなかんじ。西欧音楽にはないトルコの音階も使って」います。

 そこから出てくるのはトルコの伝統的な音楽を60年代風のサイケなロックと融合したようなサウンドです。その融合の仕方も見事な塩梅です。それは、インドやアラブやペルシャの音楽よりも日本に近い。シルクロードによる地続きを感じます。

 最大の聴き物はアスクルのしなやかで美しい声でこぶしを効かせて歌う歌謡風の歌唱です。そして、サウンドには面白いことに日本のグループサウンズの雰囲気があります。とても耳に馴染む和のテイストを感じます。

参照:CDジャーナル 2017年11月号(宇都木景一)

Hologram Imparatorluğu / Gaye Su Akiyol (2016 Glitterbeat)