もはや恒例となっているので、ファンはさほど驚かなかったのではないでしょうか。またまたニール・ヤングの音楽はその方向性を大きく変えました。もはや同じようなアルバムを出したとしたら、その方が驚きです。

 ただし、前作「カムズ・ア・タイム」のセッションから、ニコレット・ラーソンとのデュオ「セイル・アウェイ」が収録されていますし、前半部分はソロ・ツアーでの録音ですから、アコースティックな作品群です。親切と言えば親切な変遷です。

 もっともアコースティックとは言え、前作に比べると明らかに禍々しい雰囲気が漂っていて、後半のエレクトリック・セットを準備しています。その意味では、首尾一貫した力作であることは間違いありません。

 しかも冒頭と最後に「ヘイ・ヘイ・マイ・マイ」を持って来て、トータル・アルバム的な演出が施されています。冒頭はアコースティック・セットで「アウト・オブ・ザ・ブルー」、青天の霹靂、最期はエレクトリック・セットで「イントゥ・ザ・ブラック」、暗闇へと副題がついています。

 ヤングのフォースの暗黒面が出たといいますか、クレイジー・ホースとのパンクなりグランジ的な側面が存分に発揮されました。今となっては、膨大なニール・ヤングの作品群の中にあって、特異な作品というわけではありませんが、時代的には特別です。

 もう1979年でしたけれども、少し前に出てきたパンクは、いろいろとややこしい方面に進んでいたロックをもう一度ひっくり返してしまいました。そして、それまで活躍していたアーティストは軒並み老いぼれ扱いされてしまいます。

 そんな中でニール・ヤングは違いました。「孤独の旅路」の大ヒットで王道に引っ張り出されたとは言え、もともとアウトサイダーであり、言ってみればパンクな人でしたから、パンクの動きを「健康的だ」と絶賛しました。

 「過去4,5年に起こった何よりも、ディーヴォやラモーンズのような、確立したロック・シーンをバカにするやつらの方がずっと生き生きして聴こえる」。ヤングのこうした姿勢とその音楽は若い連中にも受け入れられます。パンク親父。

 「ヘイ・ヘイ・マイ・マイ」では歌詞にジョニー・ロットンが登場します。ロットンの物語は、♪燃え尽きた方がいい、サビは眠らないんだよ♪と歌われます。エレクトリック・セットのヘビーなリフに、どうやってもパンクになる歌声が素晴らしいです。

 ライブ録音から完成や拍手を可能な限り消し去り、オーバーダブを加えて制作されているため、勢いはライブのままにスタジオのマジックを少し加えて、荒々しい生々しさを表現できています。アコースティックもエレクトリックも鑿の跡が残ったような風情です。

 ローリング・ストーン誌は本作品を1979年のベスト・アルバムに選出しています。トップ10に入るヒットともなり、新しい時代にいよいよ本領を発揮するヤングです。この頃のクレイジー・ホースの充実ぶりも素晴らしい。掛け値なしに傑作です。

参照:"Neil Young : Heart of Gold" Harvey Kubernik

Rust Never Sleeps / Neil Young & Crazy Horse (1979 Reprise)