前作とはまるで別人のようなジャケットです。この二つを並べて見せたとして、同じアーティストの作品だとは普通は気づかないと思います。心の赴くままにあちらこちらに動き回るニール・ヤングの真骨頂はこんなところにも現れています。

 ヤングは前作の後、「ディケイド:輝ける10年」というベスト・アルバムを発表して、世間を騒がせました。ベスト盤は分かるとして3枚組です。当時も今も3枚組は異例のことです。ついでに、この後、この時期の曲を含むベスト盤が発表されるのは四半世紀後となります。

 ヤングはベスト盤の編集と並行してニュー・アルバムの制作にかかっています。そしてそれは、大方の予想を裏切り、極めてカントリー色の強い、アコースティックなフォーク・アルバムとなりました。「ハーヴェスト」の頃のニール・ヤングに近いです。

 「ズマ」は「アメリカン・スターズン・バーズ」のB面につながり、そのA面が「カムズ・ア・タイム」とつながると考えれば、唐突とは言えません。しかし、当時のローリング・ストーン誌のレビューなどを見ると、やはり意外に受け止められたことが分かります。

 本作品は「ハーヴェスト」以来のヒットとなり、全米トップ10入りしています。世間のニール・ヤングに対する期待はむしろこちらの姿にあったということなのでしょう。日本でも一般的にはそうです。ヤングはフォークを信じていると喝采で迎えられました。

 ヤング自身もタイトル曲の「『カムズ・ア・タイム』はグレイトなフィーリングがこもっているから、自分のキャリアを通して大好きな録音の一つだ」と2012年に語っています。「自分がやってきた中ではほとんどパーフェクトなレコーディングに近い」とも。

 もともとはアコギを使ったソロでの録音が企図されていましたが、レコード会社の勧めを受けてバンドとともに制作されました。クレイジー・ホースも2曲に参加していますが、ほとんどは「風と共に去りぬオーケストラ」と名付けられた大所帯との録音です。

 特に、ギターにお馴染みのスティール・ギターのベン・キースを含めると10人、ストリングスに16人もの名前がクレジットされています。総勢30人以上です。スタジオも6カ所、エンジニアも10人。しかもその使い方が贅沢極まりない。

 このアルバムを聴いて、30人ものミュージシャンが参加していると思う人はいないでしょう。ストリングスは前面に出ることはなく、心憎いばかりの上品な使われ方です。ギターもそう。弾き語りだと言われても信じてしまいそうです。

 ヤングは徹底して音にこだわっていて、ファースト・プレスが気に入らなかったとして、20万枚を買い占め、自宅の屋根葺きに使ったという逸話があります。アコースティックなフォーク・サウンドの一音一音に神経が行き届いているというのは凄いことです。

 ボーカルにはニコレット・ラーソンを迎え、クレイジー・ホースもアコースティック仕様としてまで、カントリー調のフォークにこだわっただけのことはあります。しみじみといい曲が並んでいて、さすがにヤングのフォースが全開であることが分かります。

参照:"Neil Young : Heart of Gold" Harvey Kubernik

Comes A Time / Neil Young (1978 Reprise)