「スターズン・バーズ」は米国の南部連合旗です。ひしゃげたニール・ヤングの顔、ウィスキー(?)のボトルにはカナディアン、裏ジャケットにはロッキー山脈とネイティブ・アメリカン、ハイヒールの底に酔いどれ女のパンツ。ヤングのアメリカは一筋縄ではいきません。

 ニール・ヤングは「ズマ」を発表後、「ホームグロウン」に続く幻のアルバム「クローム・ドリームス」を制作していますが、結局、1977年5月にこの「アメリカン・スターズン・バーズ」を発表しました。録りためていた曲を含めた福袋的アルバムです。

 A面はこのアルバムのために行われたセッションからカントリー風味満載の5曲、B面は1974年11月から1976年5月までと1年半の間に制作されていた楽曲を4曲収録しています。こちらは同系統とは言えない曲ばかりです。

 前半はリンダ・ロンシュタットとニコレット・ラーソンがボーカルで参加しています。演奏はクレイジー・ホースとスティール・ギターのベン・キースにバイオリン奏者を加えたこじんまりしたユニットです。明るめのカントリー・タッチの歌が並びます。

 リンダによれば、ヤングに誘われて北カリフォルニアにある農場に赴き、そこのPAをしつらえた納屋で丸一日セッションをしたのだそうです。リンダはリハーサルの出来に満足していたら、それが本番だったと聞かされて驚いたと、40年近く後に語っています。

 この話、リンダは一緒に歌ったのはエミルー・ハリスだと言っていますが、アルバムのクレジットではニコレット・ラーソンです。ハリスはB面の1曲目「ベツレヘムの星」で歌っていることになっています。恐らくリンダの記憶違いでしょうが、みんな楽しそうで何よりです。

 その「ベツレヘムの星」は1974年11月、どぶから這い上がろうとしている時期の演奏です。比較的A面に近いアコースティック・テイストですけれども、どぶの匂いは漂っています。これはクレイジー・ホースとの演奏ではありません。

 問題は次の2曲です。まずは「ウィル・トゥ・ラヴ」。ヤング一人による多重録音弾き語りソングです。ノイズも交えた意図したローファイで、ヤングによれば「キャラクター・ソング」として、主人公に成りきってぼそぼそ歌っています。1976年ですが、どぶの香りが強い。

 これも名曲なんですが、次のクレイジー・ホースとの「ライク・ア・ハリケーン」はグランジ・ヤングの代表曲となりました。学生の頃、この曲でギターを弾きまくるヤングの姿を何度もテレビで見て、胸を撃ち抜かれました。ここでのヤングのギターは凄いです。普通じゃない。

 ポンチョはギターではなくストリング・シンセサイザーで妙な音をだしているので、ギターはヤングの一本だけ。9分間にわたって目くるめく世界が展開します。ボーカルも力強く、私にとってはヤングの最高傑作です。

 最後は幻のアルバムのタイトルとなるはずだった「ホームグロウン」で締めます。このとっちらかったB面と整然としたA面との対比が際立ちます。一般的にはアルバムとしての人気はさほどではありませんが、2曲の名曲を含むアルバムとして素通りするわけにはいきません。

参照:"Neil Young : Heart of Gold" Harvey Kubernik

American Stars'n Bars / Neil Young (1977 Reprise)