ジョージ・ロメロ監督の記念碑的な作品「ナイト・オブ・ザ・リビングデッド」は1968年の公開です。そこからゾンビは一躍ポピュラーな存在になっていきましたが、このゾンビーズはそのはるか以前の1963年結成です。命名センスはさすが英国です。

 この作品はゾンビーズの3枚目のアルバムですけれども、彼らはこのアルバム制作途上で解散してしまいますから、とりあえずはラスト・アルバムになりました。しかし、これは傑作です。ここで解散とは全く惜しいお話です。

 ゾンビーズはデッカ・レコードとの契約が終了した後、英国に進出したばかりのCBSレコードから、自由にアルバムを制作できる契約の申し出を受けました。力のあるアーティストにとっては理想的な契約です。こうなれば否も応もありません。

 ゾンビーズの5人はさっそくロンドンのかの有名なアビー・ロード・スタジオにてアルバム制作にかかります。ちなみにアビー・ロード・スタジオでは直前までビートルズが「サージェント・ペッパー」を制作していました。その空気はまだ抜けずに漂っていたのではないでしょうか。

 このアルバムは「サージェント・ペッパー」の前でも霞むことのない見事なアルバムに仕上がっています。サイケデリックの影響を色濃く受けた、ブリティッシュの王道ポップ・ロック作品、ブリティッシュ・インヴェイジョンの頃の勢いのある極めて良質なポップスです。

 メロトロンも活躍すれば、ユニークな音響効果が施される曲もあり、ちょうど良い斬新なひねくれ具合がいいです。「ブッチャーズ・テイル」のような不思議な曲がとても座りがよくて、アルバムとしての完成度は極めて高い。

 しかし、シングル2作が不発に終わり、アルバム制作途上で、曲作りを担当するロッド・アージェントとクリス・ホワイト組とそれ以外のメンバーの間で溝が生じてきます。結果的にボーカルのコリン・ブランストーンとギターのポール・アトキンソンが脱退してしまいました。

 こうして解散してしまったゾンビーズにCBSはちゃんとアルバムを作るよう要請、ロッドとクリスはこれに応えて録音済のマテリアルを使ってアルバムを仕上げました。それがこのアルバムです。二人のプロデュースは的確で見事なアルバムになりました。

 しかし、解散したバンドの新作をプロモートするのは困難な話です。結果として、英国ではさっぱりで、米国発売は見送られそうになりました。しかし、ここにアル・クーパーが登場します。アルはこのアルバムを聴いてインパクトを受け、CBSに発売を強く勧めます。

 そして、シングル・カットされた「ふたりのシーズン」が全米3位の大ヒットとなり、アルバムもめでたく発売されました。アル・クーパーが正解でした。シェイクスピアの「テンペスト」からの引用も載せた遅れてきたサイケなジャケットですけれども、圧倒的に斬新だったんです。

 「ふたりのシーズン」は今でも新鮮さを失わない名曲中の名曲です。イントロからしてこの時代を根っこにしつつ、異次元に突き抜けています。「恐れるでない」、シェイクスピアの言葉を胸に突き進んだゾンビーズでした。

Odessey and Oracle / The Zombies (1968 CBS)