理不尽に拘束してくる世間に抗って、真の自由を求めて闘う。ロックの歴史において何度となく繰り返されてきた戦いは、私たちがロックに惹かれる一つの大きな魅力です。畑は違えど、創作アーティストのんは今その最前線にいます。

 というような判官びいきでこの作品を買ってみたことが恥ずかしくなりました。のんはそんなことを軽々と超えて、自由な世界を展開しています。国民的女優の余技などではありません。しっかりとした妥協のないサウンドが繰り広げられます。

 不覚にも鳥肌がたってしまいました。3曲目の「アイ・ライク・ユー」を聴いた時のことです。RCサクセションのカバーを仲井戸麗一のギターだけをバックにのんが歌います。チャボは清志郎に報告するとのんに約束したそうで、確かにそれほど感動的な歌唱です。

 続く「タイムマシンにお願い」は、高橋幸宏に小原礼という本物のサディスティック・ミカ・バンドがリズムを刻み、元リアルフィッシュの矢口博康のサックス、松たか子の夫佐橋佳幸のギター、元ボ・ガンボスのドクター・キョンがキーボードと、これも豪華な布陣です。

 そもそもプロデューサーがYMOを始め、YENレーベルのアーティストに係わってきた飯尾芳史です。そして一曲目はトッド・ラングレンを師匠とする高野寛の作曲ですし、二曲目には元シンプリー・レッドの屋敷豪太やジューシー・フルーツ沖山優司も参加しています。

 くらくらするほどの豪華な布陣で、いずれももはや自由の境地を獲得した大人ばかりです。そんな大人に支えられて、のんは小学校6年生の頃からバンドを組んで弾いているというギターを物おじせず弾きまくっています。

 それに二曲目の「へーんなのっ」は最初に作った曲だそうで作詞作曲も手掛ける創作アーティストぶりを発揮しています。DVDを見ると、しっかりとギターも弾いていますし、特に「へーんなのっ」ではソロも担当している模様です。

 高野の「スーパーヒーローになりたい」はポップ全開ですけれども、しっかりロックもしていて、ちょうどのんの魅力を可愛らしくパッケージできていて、さすがに高野の楽曲です。派手さはそれほどありませんが、じわじわ来ます。

 「へーんなのっ」はのんの主張をありのままに吐露した歌詞を、正統派ロックで歌ったガレージっぽいサウンドです。♪変なものは変だ♪。よくぞ言ってくれました。「ポップで生意気で、いま思春期の自分らしい曲になったと思います」とは本人の弁です。

 サポートしている布陣から見ても分かる通り、これはロックです。それも70年代、80年代を彷彿させます。そしてのんの歌唱が素晴らしい。「タイムマシンにお願い」は歴代最高だと思います。女清志郎っぽくてかつ個性豊か。

 おっさんばかりに囲まれているところがやや不安ですが、ガールズ・バンドでのライブもあるので、バランスが取れているのでしょう。若干抑え気味らしいので、リミッターを解除してどんどん暴れて欲しい。バンド名の候補にのんライドンを挙げていた本気を見たいです。期待大。

参照:エンタメステーション2017/11/27

Super Hero ni Naritai / Non (2017 Kaiwa)