「ハーヴェスト」で全米を制覇したニール・ヤングの次なるプロジェクトは、「過去への旅路」という映画製作でした。そのサントラとして2枚組の同名盤も発表されていますが、いずれも商業的とは言えないような内容でした。売れるということに忸怩たる思いだったようです。

 そのことは1973年春に行われた自身初のアリーナ・ツアーでも同様で、このツアーではあえて「ハーヴェスト」に重点を置くことをせず、ツアーのライブ・アルバムである本作品も新曲ないし未発表曲ばかりを収録するという異端児ぶりを発揮しています。

 バックを務めるのは「ハーヴェスト」でヤングを支えたストレイ・ゲイターズです。ジャック・ニッチェもしっかりと参加しています。これであえて売れた曲にハイライトを当てないわけですから、レコード会社も困ったことでしょう。

 しかし、このツアーはステージ数が多すぎましたし、バンドの連中とはお金を巡ってひと悶着あったようですし、そのためもあってヤングが途中でちゃんと声が出なくなって悪戦苦闘するという散々な結果に終わりました。

 ゲスト参加しているCSN&Y仲間のデヴィッド・クロスビーとグラハム・ナッシュは声のでないヤングをサポートするために駆け付けたのだそうです。バンドは内部崩壊しつつあり、おまけにヤングはギターを似合わないフライングVに持ち替えて妙な感じになってしまいます。

 ついにヤングはアンコールの途中でステージを降りてしまい、観客が怒り狂うなんていう事態にまで発展します。ヤングはステージが大きすぎて、自分のような歌詞を大切にする音楽には向かなかったと述懐しています。

 ツアーの直前にクレイジー・ホースのダニー・ウィッテンが亡くなってしまったことも大いに影響しているのでしょう。とにもかくにもこのツアーでのニール・ヤングは落ち着かない。アルバムにもその表情はそのまま表れています。

 ヤングによれば、すべてのアルバムは現在進行形の自叙伝です。問題が山積して何もかもうまくいかないこの時点のニール・ヤングの姿がここに記録されています。思い出したくもなかったのか、CD化されたのは発表から40年も経ってからのことでした。

 ただし、決して滅茶苦茶なアルバムであるわけではありません。ニール・ヤングの作詞作曲になる楽曲ですから一定の水準はクリアしています。このアルバムを聴いて、何か感じるものがあるならば、ヤングの全キャリアに向かい合う準備は整っていると言われます。

 もちろん前作や前々作のような充実した傑作というわけではありません。ストレイ・ゲイターズの演奏もぎくしゃくしており、どうにも居心地が悪い。観客の反応も微妙な空気感が漂っています。それをそのままパックするところがヤングらしい。

 それでも全米チャートではトップ30には入るヒットを記録しました。これからたびたび登場するニール・ヤングの問題作の一つで、悪くはないけれども影が薄いアルバムです。こういう時は誰にもあるものです。それを赤裸々に記録していくヤングは立派です。

参照:"Neil Young : Heart of Gold" Harvey Kubernik

Time Fades Away / Neil Young (1973 Reprise)