「ハーヴェスト」とシングル・カットされた「孤独の旅路」はニール・ヤングに初の全米1位をもたらし、彼の名を不滅のものとしました。今でも彼の最高傑作にあげる人が多いですし、ロックの歴史の中でも上位にランクされる名盤中の名盤です。

 「自分はあらゆる種類の音楽を作りたいし、自然に浮かんだことをやりたいんだ」とニールは語っています。レコード会社から何かやれと言われたわけでもなく、「ハーヴェスト」はまさに自然体で出来上がったアルバムです。

 ヤングはフォーク・ミュージックが好きだというBBCにイギリスに呼ばれましたし、これまた招かれて、テネシー州ナッシュビルを訪れ、「ジョニー・キャッシュ・ショー」に出演しました。ご存じ、カントリーの聖地として知られるナッシュビルです。来るもの拒まずの姿勢です。

 ナッシュヴィルでヤングはプロデューサーのエリオット・メイズに出会います。メイズはヤングの前作に興味を持っており、ナッシュビルにやって来ると聞いて、夕食会をホストしました。ヤングの他にリンダ・ロンシュタットとジェイムズ・テイラーも夕食会に招待されています。

 その翌日には、ヤングはメイズのアレンジで、ボブ・ディランの「ブロンド・オン・ブロンド」でドラムを叩いていたケニー・バットリィを始めとする一団のミュージシャンとセッションを行っています。後にヤングの右腕となるベン・キースもこの時が初めての出会いです。

 こうして「ハーヴェスト」の大半が作られていきました。リンダ・ロンシュタットとジェイムズ・テイラーは「ジョニー・キャッシュ・ショー」で共演した後、誘われてレコーディングに参加したそうで、リンダは一晩中かけた録音は大変だったけれども、音楽は最高だったと語っています。

 アルバムには他に英国でのライブ録音が一曲、ロンドン交響楽団との共演が2曲収録されています。後者はジャック・ニッチェがプロデュースを担当しています。何と言いますか、自由に心の赴くままに制作されたことが分かります。

 バンドはニッチェも含めてストレイ・ゲイターズと名付けられました。クレイジー・ホースはどうやらドラッグ禍でこの時期まともな状況じゃなかったようです。また、CSN&Yも活動を停止しており、このアルバムにゲスト参加はしていますが、4人揃うことはありませんでした。

 何かと話題が豊富なアルバムですけれども、ナッシュビル録音らしく、カントリー寄りになっていると一般に言われています。クレイジー・ホースと比べるともちろんカントリー寄りですけれども、翳りのあるゆったりとしたサウンドはさほどカントリー風ではありません。

 重めのロックもありますし、ギターだけを伴奏にしていても、決して軽やかな感じはせず、湿り気を帯びたボーカルが耳を奪います。さすがに最高傑作と呼ばれるだけのことはあり、聴き込めば聴き込むほどに味が出てくる素晴らしいアルバムだと思います。

 リンダとジェイムズが参加した「孤独の旅路」は思いもかけずシングル・チャートを制しました。相応しい名曲だと思いますが、ヤングはシングルに流されたくないという理由から、このことに複雑な思いを抱いたようです。複雑です。

参照:"Neil Young : Heart of Gold" Harvey Kubernik

Harvest / Neil Young (1972 Reprise)