1977年2月12日、それは武装した兵士とフェラ・クティのところの若い連中の口論で口火が切られました。2月18日、殴られた兵士はフェラの住居であるカラクタ共和国に戻ってきました。完全武装した1000人の兵士とともに。

 最初は単なる若い兵士との小競り合いだと静観していたフェラですが、その時にはすでにカラクタ共和国は完全に武装兵士に包囲され、しかも司令官が陣頭指揮をとっていたと言いますから、これは軍隊による意思をもった攻撃に間違いありません。

 兵士たちはカラクタ共和国に突入すると、「うちの連中を鞭で打ち、殴り、銃剣や割れた瓶で斬りつけ・・・そして女たちをレイプした」。フェラも激しく殴打され、さらには77歳になる母親までもが2階から突き落とされて怪我をしました。

 カラクタ共和国は火を放たれて炎上した上に、フェラは「まず病院へ、そのあと拘置所へと送られ、骨折し傷だらけのまま27日間も勾留され」ました。襲われた上に逮捕され、起訴までされてしまいます。しかし、これでもフェラはくじけない。凄い人です。

 このカラクタ炎上事件の後、フェラ・クティは2枚の作品を発表しました。本作品「ソロウ・ティアーズ・アンド・ブラッド」はその一枚です。「カラクタ襲撃で殴られ、暴行され、拷問され、傷ついた者たちの辛い記憶に捧げたアルバム」です。

 フェラはくじけないにしても、所属するレコード会社デッカはそうではありません。関わり合いを恐れたデッカはアルバムの発表を拒否しました。その結果、本作品はフェラ自身のレーベルであるカラクタ・レコードからの第一弾となりました。

 いかにも自主制作らしい簡素なジャケットに写っているのはステージに立つフェラ。カラクタ炎上からわずか1か月後くらいにステージに立ったフェラの左足にはギブスがはまっています。襲撃で受けた骨折です。凄味が違います。

 アルバムは恒例に従ってA面、B面それぞれ一曲ずつですが、今回はさすがに若干短めです。A面のタイトル曲は、まさにカラクタ襲撃の情景を彷彿させる曲です。♪警察がやって来る、軍隊がやって来る、そこらじゅうが混乱している♪。

 そして、♪警察も去らない、軍隊もいなくならない、奴らは悲しみと涙と血を残していく♪。ひどい状況の中でアフリカ70のメンバーが集まり、たぎる思いをクールにぶつけています。抑え気味のトーンが迫力を倍増させています。

 B面もストレートにナイジェリアの指導者層の植民地根性を批判する曲です。舌鋒は鈍るどころかますます鋭くなっています。こちらもクールなサウンドが余計に、その中を流れる爆発しそうな感情を感じさせ、背筋がぞくぞくします。

 なお、アート・アンサンブル・オブ・シカゴのレスター・ボウイはこの作品に参加している模様です。アフリカ70と一体化したボウイのプレイも注目です。異常な状況の下で、全く怯むことなく真っ直ぐに進むフェラにはボウイも脱帽したことでしょう。これは傑作です。

参照:「フェラ・クティ自伝」カルロス・ムーア(菊地淳子訳)

Sorrow, Tears And Blood / Fela and Afrika 70 (1977 Kalakuta)