ニール・ヤングはCSN&Yの傑作「デジャ・ヴュ」の制作と並行して自身の三枚目のアルバムを制作しました。それがこの「アフター・ザ・ゴールド・ラッシュ」です。ハイパー・アクティブと言いますか、何とも旺盛な創作意欲です。

 この作品は日本ではことに人気が高いようです。例えばミュージック・マガジン誌の40周年記念アルバム・ランキング・ベスト200では何と第2位ですし、小野島大氏の「ロックがわかる超名盤100」でも、渋谷陽一氏の「ロック」でもヤングのこの一枚に選ばれています。

 ヤングの最高傑作はこの作品か「ハーヴェスト」かで意見が二分するそうですが、この世代の評論家の皆さんはほぼこの作品で決まりだと言えそうです。日本人の琴線に触れたサウンドであるということなのでしょう。

 アルバムは「アフター・ザ・ゴールド・ラッシュ」なる映画のサントラ作りをヤングが頼まれたことから始まった模様です。しかし、いつの間にか映画はどこかに行ってしまい、このアルバムだけが残りました。ありがちな話です。

 ニール・ヤングを支えるのはもちろんクレイジー・ホースの三人です。そこにデビュー作で大きな役割を果たしたジャック・ニッチェ、ベースにグレッグ・リーヴス、さらにまだ10代だったニルス・ロフグレンが参加しています。

 ニルスはプロデューサーのデヴィッド・ブリッグスから話をもらった時に、ピアノも頼まれて大変ナーヴァスになったそうですが、ヤングとブリッグスに支えられて、結果的にはこの作品にぴったりはまって見事な結果を残したと言えるでしょう。

 前作に比べるとアコースティック・ギターの活躍が目立ちます。「サザン・マン」など、前作の系統にあるグランジ系のロック・チューンもありますけれども、全体にフォーク調の曲が多く、日本での一般的なニール・ヤング像そのままのサウンドです。

 曲作りの技も冴えわたっており、全曲捨て曲なしの名曲揃いです。発表当時、米国では生煮えだと評されたようですが、面白いことに小野島氏も渋谷氏もそこを高く評価しています。最初に歌にしようとしたものを手を加えずにそのまま提示しているところがポイントです。

 フォーク調の曲ばかりではなく、ロック・サウンドの「ユー・キャン・リアリー・ラヴ」でさえそのままです。この曲はクレイジー・ホースとジャック・ニッチェがスタジオで共演した唯一の曲ですが、ニッチェとクレイジー・ホースの息が合った演奏はスタジオ・ライブに違いありません。

 CSN&Yの人気もあって、アルバムは全米8位まで上がる大ヒットになりました。ウェスト・コースト・サウンドの中で、この荒削りで湿り気を帯びたサウンドが受け入れられたわけです。ヤングにとっては大いに自信になったことでしょう。いよいよ本領発揮です。

 なお、裏ジャケットには奥さんのスーザンが刺繍をしたジーンズが写っていて、彼女のクレジットもありますが、スーザンはこのアルバムが発表されると同時にニールの元を去ってしまいました。急に忙しくなるとやはり大変なんですね。

参照:"Neil Young : Heart of Gold" Harvey Kubernik

After The Gold Ruch / Neil Young (1970 Reprise)