これは驚きのコンピレーションです。レコード屋さんで見つけた時には狂喜乱舞いたしましたが、ばったもんではないかと疑ってかかったことも事実です。海賊盤は買わない主義ですから、少し悩んだものの、オーストラリアのレーベルなので大丈夫だろうと思いきりました。

 今でこそユーチューブやら配信やらで音源を聴くことはできますけれども、2005年当時はそこまでの環境にはなく、ここにコンパイルされた12インチ・シングルたちを聴くことはとても労力がいることでした。それを一挙に解決したのですから大したものです。

 最初はセックス・ピストルズとPiLをつなぐ存在として幻度が高かったスティール・レッグVSエレクトリック・ドレッドです。ジャー・ウォブルとキース・レヴィン、それにオーディオ・ダイナマイツとなるドン・レッツとそのお友達によるユニットです。

 ジャケットに写る覆面男はジョン・ライドンではないかと噂されたものですが、それは違います。ウォブルのブンブン・ベースにレヴィンの剃刀ギターはPiLそのものですし、ドン・レッツが持ち込んだレゲエ、ダブは圧倒的な迫力です。ミッシング・リンクが見つかりました。

 続いては実はこれが一番の目当てだったレ・ヴァンピュレッツです。パンクでもニュー・ウェイブでもないジャーマン・プログレの大御所カンのホルガー・シューカイと、クラウト・ロック界のサウンド番長コニー・プランクによるユニットです。

 「公害アニマル」と「没落への警告」の2曲だけですけれども、1981年に発表された時には衝撃を受けたと言ってよいでしょう。フォースの暗黒面を前面に出したような作品で、ベースと電子音・効果音がおどろおどろしく、そこにドスの効いたドイツ語の語りが入る曲です。

 オリジナルには確かダモ鈴木による日本語詞がジャケットに記載されていたはずです。リズムもメロディーも音の響きの中に溶けてしまって、暗黒界のアンビエントともいうべきサウンドは、社会を激しく指弾しているのです。これは傑作です。

 そして、同じPiL関連ではヴィヴィアン・ゴールドマンの「ダーティ・ウォッシング」もあります。彼女の曲は3曲で、一曲目はジョン・ライドンとキース・レヴィンがプロデュースしているんです。そして、2曲目3曲目はダブを追求するエイドリアン・シャーウッドのプロデュースです。

 そしてブリストルからグラクソ・ベイビーズのデビュー・シングル「ディス・イズ・ユア・ライフ」。ザ・ポップ・グループの影に隠れて目立ちませんが、彼らもポスト・パンク期の重要なバンドでした。「誰がブルース・リーを殺したか?」のタイトルを始め、初々しい魅力が感じられます。

 大トリはポスト・パンク期のアヴァンギャルド代表格ディス・ヒートの「ヘルス・アンド・エフィシャンシー」です。どちらも傑作とされる2枚のアルバムの合間に発表されたEPで、これをディス・ヒートの最高傑作と呼ぶ人も結構多いです。延々と続くビープ音は挑戦的です。

 まとまりがあるのかないのかよく分かりませんが、そこはレアなシングルのコンピですから容赦しましょう。一つ一つの個性が際立っているので、私は十分満足です。オリジナルの発売当時のことを思い出しつつ、やっぱりレ・ヴァンピュレッツは最高だなと嬉しくなりました。

The Post Punk Singles Vol.1 / Various Artists (2005 Progressive Line)