「サイケデリックという概念を意図的に表現しようとした世界最初のアルバム」であるとオールデイズ・レコードさんから再発されたこの名盤の帯に書かれています。これは大変良くできたコピーであると思いました。

 これはサイケデリックです。誰が何と言おうとサイケデリックです。どこが、と言われても説明できません。なぜなら、これがサイケデリックのベンチマークだからです。ある作品がサイケデリックかどうかは、この作品との距離で表すことができます。

 単位はエレベーターです。グレイトフル・デッドは意外とサイケデリック度は低く3エレベーターくらい、ブルー・チア―は10エレベーター、クリームは5エレベーター、アイアン・バタフライは8エレベーター、ジャニス・ジョプリンは7エリクソン、とかなんとか。

 このバンドは1965年にテキサスで結成されました。もともとはリングスメンなんていう可愛らしい名前でしたが、LSD男のトミー・ホールが加わって「LSDによる意識改革をテーマにしたバンド」となり、名前もエレベーターズに13階をつけて禍々しいものに変わりました。

 そんなバンドですからマリファナなんかも普通に使っていたようで、警察がマークしないわけがない。バンド結成の翌月、1966年1月にはシングル盤をリリースした彼らでしたが、同じ月にベースのベニー・サーマンを除く全員が逮捕されています。

 その後も警察との深いかかわりは続きますけれども、バンドは着々と人気を得ていきます。しかし、ボーカルのロッキー・エリクソンを始め、バンドの面々は次第に不安定になっていきます。レコード会社との関係もややこしくなり、彼らには常に黒雲が覆いかぶさります。

 否が応でも伝説度が高まろうというものです。しかも、ドラッグへの批判を恐れて、まともなプロモーションもされなかったがために、発表当時は音楽誌では絶賛されたもののまるで商業的には成功しませんでした。さらに伝説度は高まります。

 サウンドはサイケデリックです。と繰り返していてもしょうがないので、いくつか特徴を抜き出すと、まずはカリスマ・ボーカリスト、ロッキー・エリクソンのシャウトするボーカル。ヘビメタ的な端正さではなく、禍々しいワイルドさが魅力です。ジャニス・ジョプリンへの影響大です。

 そしてトミー・ホールの唯一無二のエレクトリック・ジャグです。壺を吹いてそれを電気で増幅するというLSDなしではロックに取り入れようとは思わない楽器です。これが不思議なぽこぽこ音を出していてトリップ感を連れてきます。変な音です。

 さらにはステイシー・サザーランドのこれぞサイケデリックなコスミック感あふれるギターを加えて、全体にはガレージ・ロックをサイケデリックに昇華したサウンドが展開していきます。さすがに凡百のガレージ・バンドとは一味違います。

 残念ながらトリップなるものをしたことがないので、遠巻きにエレベーターズを眺めていることしか出来ませんが、彼らのおかげでサイケデリックなるものが世の中にしっかりと存在を刻印することが出来たことは分かります。やはり音楽の力は偉大です。

The Psychedelic Sounds Of / The 13th Floor Elevators (1966 International Artists)