コロンビアでは2016年末に50年に及んだ内戦が終結しました。何はともあれ、数多くの犠牲者を出した戦争が終わったことは喜ばしいことです。内戦はコロンビアが十分にそのポテンシャルを発揮できなかった原因となっていました。これからのコロンビアに期待したいです。

 そのコロンビアは大衆音楽の宝庫でもあります。特に海岸沿いのカルタヘナなどで盛んなクンビアやデスカルガといった音楽はラテン・アメリカ諸国のみならず、世界的にも有名です。ネスカフェのCMに使われた「ラ・コレヒアーラ」が最も有名でしょう。

 しかし、コロンビアは広い。シマロンは沿岸部ではなく、アンデス山脈を越えた東部平原地帯から世界に飛び出したバンドです。ジャノと呼ばれるこの地帯では、クンビアではなく、ホローポと呼ばれる音楽が盛んです。シマロンはこの祭宴音楽の旗手です。

 シマロンは2000年にハープ奏者のカルロス・ロハス・エルナンデスとボーカルの紅一点アナ・ベイドの二人によって立ち上げられました。シマロンはホローポの伝統の真髄は守りつつ、その遺産を革新することにとりくんでいるバンドです。

 このことは使用する楽器に現れています。ホローポの特徴であるハープや、バンドーラと呼ばれる伝統的な弦楽器が伝統の真髄、ペルーの伝統楽器カホンなど通常使われない打楽器類を使うことが革新です。

 打楽器使用は、「ホローポでもっとも重要なのが踊り手によるサパテオ(靴音)と、細かいところまで表現できるマラカスのリズム」で、これが大舞台ではその魅力を発揮できないことから、こうした打楽器で「サバテオやマラカスのリズムを補おうと考えたんだ」ということです。

 このアルバムはジャノを流れる「ジャノの人々にとって父親のような存在であり、ジャノ文化の基盤」であるオリノコ川をタイトルにしています。エンヤのヒット曲「オリノコ・フロウ」もオリノコ川のことですが、イメージはまるで異なります。こちらは熱い熱い。

 シマロンはステージでは若手メンバーによるダンスも披露されます。その靴音もしっかりとアルバムに収録されています。タップ・ダンスです。それに超高速のマラカスのリズムが加わり、これを打楽器群が補強します。

 この上に四弦ギター、クアトロやバンドーラの超早弾き、そしてハープにボーカルと、どれもこれも落ち着いている暇がないほどの忙しさです。フラメンコに先住民、そしてアフリカンをミックスした超絶サウンドが展開しているわけです。

 「ホローポは基本的に踊るための音楽で、主役は踊り手。音楽は踊り手を踊らせるためのものとして存在している。」とはリーダーのカルロスの言葉です。そして新しいスタイルながら、「あくまでジャノでやっているホローポの祭りを再現しようとしている」のだそうです。

 究極のダンス音楽だと言えるでしょう。超高速リズムはまるでドラムン・ベースのようです。ダンスのためにすべてを捧げる潔さが、アルバムにあふれかえっています。中南米の音楽の中でも比較的しゅっとしたサウンドで海外で人気なのもうなづけます。面白い音楽です。

参照:CDジャーナル2017年9月号(大石始)

Orinoco/ Cimarron (2017 TAKI's)