アルバムのタイトルが「スティーヴ・マックイーン」と聞いた時には当惑しました。マックイーンが亡くなって5年も経ってたとはいえ、当時はまだまだスターらしいスターとして人々の記憶にはくっきりと刻み込まれていたスーパースターですから。

 案の定、米国ではタイトルを変更して発売されました。その気持ちは分かります。むしろ今では問題なくこのタイトルを使っていると聞いて、時の流れを感じた次第です。今では彼のことを知らない人も多いんでしょうね。

 プリファブ・スプラウトは1982年に結成されたイングランド北東部ダーラム出身の4人組です。自主制作シングルがニューキャッスルのキッチンウェアなるレーベルに認められ、デビューを果たしました。なお、ダーラムは大聖堂がハリーポッターで使われたことで有名です。

 キッチンウェアからのデビュー作がインディーズながらナショナル・チャート入りして耳目を集め、メジャーからの発売が決定、プロデューサーに「彼女はサイエンス」のトーマス・ドルビーを迎えて制作されたのがこの「スティーヴ・マックイーン」です。

 プリファブ・スプラウトの中心はボーカルとギターのパディー・マクアルーンで、ベースはパディーの弟、ドラムは本作から参加のニール・コンティ、それにギターとキーボードとコーラスを担当するウェンディ・スミスの四人組です。

 作詞作曲もパディ―が担当しており、かなりワンマン・バンドの様相を呈しています。彼の「ボブ・ディランの描写とエルビス・コステロの武骨さ」を兼ね備えた曲作りのおかげで、プリファブ・スプラウトは80年代後半を代表するポップ・バンドになったと評されています。

 サウンド的にはライナーで高橋健太郎氏が書いている通り、ポール・ウェラーやアズテック・カメラを彷彿させるものがあります。たしかに、ボーカルのとり方やゴージャスなソウルっぽい展開はスタイル・カウンシルを思わせます。

 アルバム収録の「ホエン・ラヴ・ブレイクス・ダウン」は名曲ですが、本作に先立ってシングル発表されるも失敗、ドルビーのリミックスで再挑戦してもまだうまくいかず、結局、本作品がヒットして彼らの存在が広く認知されてようやく三度目の正直でヒットしました。

 本作品の成功にはトーマス・ドルビーの力が大きく寄与しているのですが、このシングルの動きをみていると過大評価は禁物です。チャート的にもデビュー作とおっつこっつですし。やはりマクアルーンの曲作りが成功の最大の要因です。

 ギターの響きも美しく、「透明感あふれるニュー・アコースティック・サウンド」です。決してアコースティックではないのですが、こう言われても違和感はありません。この当時10代だった若者の心を打ったサウンドは多くがネオアコと呼ばれましたし。

 この作品の発表当時は英国の国民的バンド、ザ・スミスが活躍していました。しかし、青春の一枚にこの作品を挙げる人も多い。じわじわと来る良いアルバムです。タイトルのセンスだけは頂けませんが、息長く活動するのも頷けます。

参照:Guinness Encyclopedia of Popular Music

Steve McQueen / Prefab Sprout (1985 Kichenware)