観光地になっている遺跡を訪ねますと、しばしば遺跡を中心にしたライト・アンド・サウンド・ショーに出くわします。多くの場合、ライトもサウンドも中途半端なもので、期待外れに終わるものです。せめて、プロジェクション・マッピングの普及に期待したいものです。

 ティム・ブレイクのクリスタル・マシーンはまさにライト・アンド・サウンド・ショーです。ティムがシンセサイザーを駆使して音楽を奏で、パトリス・ウォーレーナーがレーザー光線を使ったライティングを行います。二人のコラボ・ユニットの名前がクリスタル・マシーンです。

 ティム・ブレイクは英国カンタベリー・サウンドの中心の一つゴングに参加したことで知名度を上げました。1952年生まれで、演劇学校に入学すべくロンドンに出てきて以降、ミュージシャンのローディなどをしながら、60年代末から70年代始めの空気を存分に吸います。

 シンセサイザーに親しむようになったティムは、まずはエンジニアとしてゴングに係わり、やがてシンセサイザー奏者としてゴングのラジオ・ノーム・インヴィジブル三部作に参加しますが、1975年にはデヴィッド・アレンの脱退を機にゴングを離れました。

 そして、パリでレーザー光線を使ったショーを行っていた視覚芸術家のパトリスとユニットを組み、ライト・アンド・サウンド・ショーを始めます。この作品は、そのショーにおいて演奏された音楽をとりまとめた作品です。

 3曲目と4曲目はそれぞれライブ会場が記載されています。それ以外の曲はスタジオ録音なのかどうなのか判然としませんが、アルバムの性格上、会場名が良く分からないライブ音源なのではないかと思われます。それほど際立った相違はありませんし。

 ティム・ブレイクのサウンドはシンセの音色を慈しむかのように、とても音響を大切にしています。キーボーディストとしてメロディーを弾きまくるとかそういう方面ではなく、サウンドそのものを塗り上げていく方向に向かっています。それもポップな感性です。

 使用機材もフランジャーなどに至るまでしっかりとクレジットされており、テック・キッズぶりが見てとれます。ミニマルなビートを背景に、シュワシュワと気持ちの良い音が縦横無尽に駆け巡るさまはなかなかの聴き物です。ジャーマン勢に比べるとしっとりとポップですし。

 ジャケットを見るとまるでデヴィッド・ボウイのようなグラム系の服装でティム・ブレイクが立っています。そして、背後に写るのはスモークに照射されたレーザー光線です。この当時の技術ですから、さほど工夫も出来ない中、よくもしっかりとショーを構成できたものです。

 シンセもレーザーもまだ駆け出しの頃です。手に入れたらまずは使ってみたくなるのが人情です。当時の技術ですから、大した使い道もない中で、ここまで立派に使い切るとは大したものです。よほどの好奇心がないとできません。

 CDですからライトと切り離して聴くしかありませんが、サウンドだけでも十分聴き応えがあります。コンピューターなどない中で、ステージ上でここまで気持よく演奏されると、何だかこちらまで気持ち良くなってきます。エンターテインメント性が極めて高いサウンドです。

Crystal Machine / Tim Blake (1977 Egg)