前作の後、私の手元に届いたのは「デア・ムッソリーニ」の12インチ・シングルでした。おったまげたという言葉はこういう時に使うものでしょう。バブルにはまだ間がある時期でしたけれども、否が応でも盛り上がるこの曲を聴いた人々はみんなおったまげたはずです。

 DAFは前作発表後、ドイツに戻ります。そして、結局はボーカルのガビ・デルガドとドラムとエレクトロニクスのロベルト・ゲアルの二人組になりました。ガビによれば、DAFを始めた頃の二人に戻っただけということです。

 いや、ちょっと待ってください。デビュー作で言及したDAF誕生物語と違います。ガビとロベルトのバージョンでは、1978年にデュオで始まったDAFは、二人では無理だと、一緒に演奏するミュージシャンを呼び集めて演奏をしていたことになっているんです。

 しかし、第三のDAFメンバーとも言うべきコルグのシンセMS-20を購入してからは、わざわざミュージシャンを呼ばなくてもよくなりました。それがまた二人に戻った事情だということです。もともと二人が良かったと。DAF物語はやっかいです。

 話がそれました。元に戻しましょう。DAFはドイツに戻るとともにレーベルもミュートからヴァージンに移籍します。この作品「万事良好」はヴァージンからの第一作です。DAF黄金期を飾るヴァージン三部作の第一弾です。

 ここでは、まずロベルトが日本が誇るコルグのシンセにてビートを作り出します。それをコニー・プランクのスタジオにてARPシンセとシークエンサーに移します。ロベルトはそのビートに重ねるように生ドラムを叩きます。そして、そこにガビが歌を作っていきます。

 コルグMS-20はシークエンサーを持つ初めての普及型シンセです。二人のメンバーと同じような重要性を持っているとロベルトが語っています。さらには機械に演奏させるのではなくて、機械が自ら演奏しているんだとも。

 その通りです。シンセ・ビートに生ドラムを重ねるだけで、こんなにも艶っぽい、水気たっぷりなサウンドが登場するとはコロンブスの卵のような発見です。さらに太くて低いガビのボーカルが加わると、シンセは肉体をまとい、汗を飛び散らせます。

 同じデュッセルドルフにはクラフトワークという先達がいますけれども、二つのグループのシンセサイザーはまるで生物と無生物の差があります。これが二人がやりたかったサウンドなのでしょう。ビートと歌。ただそれだけ。ただそれだけが尊い。

 「デア・ムッソリーニ」に戻りましょう。歌詞にはムッソリーニだけではなく、ヒトラーも登場します。さすがにドイツではタイトルにヒトラーを持ってくるわけにはいかなかったでしょうが、それでも十分刺激的です。とにかく強力です。

 このアルバムは10万枚を売り上げるヒットとなり、「デア・ムッソリーニ」も大ヒットしました。アルバムには政治的な曲ばかりではなく、同じ構造ながらまるで感触の違う曲も入っています。スタイルが確立したDAFは向かうところ敵無しでした。

Alles ist gut / Deutsche Amerikanische Freundschaft (1981 Virgin)