随分前の話になりますけれども、盆踊りが好きだった幼稚園に通ううちの息子は、この作品の一曲目「ロボット」をかけるといつも踊りだしたものです。あまり父親のかけるやかましいロックには反応しなかったのに、このアルバムだけは違いました。

 この作品の発売当時の邦題は「人間解体」でした。このことからも分かる通り、クラフトワークはジャーマン・プログレッシブ・ロックの重鎮として扱われていました。機械による人間の疎外を描いた作品で、文明社会への警鐘を鳴らした作品だと捉えられてもいました。

 このテーマはAIやIOTの時代になると全く違う衝撃度で迫って来るわけですけれども、当時は深刻さはありませんでした。クラフトワークも電脳というよりはメカニカルな機械を表現していたように思います。それでも恐らくは先見の明があったのでしょう。

 それはさておき、このサウンドをいわゆるプログレッシブ・ロックと呼ぶ人はもはやいないでしょう。その後のテクノの隆盛にダイレクトにつながるダンス・オリエンティッドなポップ・アルバムですから。父は息子に完敗してしまいました。大人の目は曇るものです。

 クラフトワークの傑作「ヨーロッパ特急」に次ぐアルバムはまるで構成主義を思わせるジャケット・デザインで登場しました。捻りに捻って共産主義的プロパガンダ芸術は当時の世相において新鮮でかっこよすぎました。世の中に余裕が出てきたことの表れでもあります。

 そして階段状に並ぶ四人の姿がまた凄い。テクノ・カットはここに誕生しました。短髪にネクタイ姿のサラリーマン・ルックをこれほどかっこよく表現した例は後にも先にもないでしょう。前作の不気味な感じがここでは昇華されています。

 収録された楽曲は全部で6曲。これまでの作品とは異なり、強烈に一貫するテーマがあるわけではなく、曲のそれぞれが緩やかなかかわりをもって連なっていきます。中でもシングル・ヒットしたのはクラフトワークの代表作「ザ・モデル」です。超弩級の名曲です。

 この曲は1978年にも一部でシングルとして発売されましたけれども、その時はさしてヒットしておらず、1981年に次作からの曲のB面として発売されて人気を得、さらにAB面を逆転した形でようやく1982年に英国で1位となりました。

 4年の間に音楽業界は激変しており、ようやく時代はクラフトワークに追いついたということがよく分かります。呼びかけるように歌う加工しないボーカル、♪てんててれてれてんててれてれ♪となるメロディー、際立つ電子リズムはポップさをさらに増しました。

 この曲は米国西海岸に渡ったスネークフィンガーや日本のヒカシューがカバーしました。どちらも名作です。曲の地肩が強いわけです。「ザ・モデル」に限らず、全般にポップさを増し、プログレ的な要素はほぼ一掃されました。これもまた一つの頂点です。

 彼らはステージに四人の顔型を模したロボット人間を立てて演奏したこともあり、パンク/ニュー・ウェイブ時代のただ中で孤高の道を歩む姿が神々しかったです。それこそ雨後のタケノコのようにフォロワーを生み出したのも分かります。

Man Machine / Kraftwerk (1978 Kling Klang)