クラフトワークは「アウトバーン」の成功によって、自らのプライベート・スタジオであるクリング・クラング・スタジオに十分な機材をそろえることができた模様で、本作品からは同スタジオにてセルフ・プロデュースによって制作されることになりました。

 フローリアン・シュナイダーとラルフ・ヒュッターの二人が電子音楽への関心から意気投合して結成されたのがクラフトワークです。初期の頃のアルバムには後にノイ!を結成するクラウス・ディンガーなども参加していました。

 二人に新メンバーのヴォルフガング・フリューアを交えて制作されたのが出世作となった「アウトバーン」。人気が沸騰した彼らが、カール・バルトスを加えた4人組として初めて制作したのがこの「放射能」です。

 前作は高速道路を疾走する情景を描写していました。本作ではうってかわってラジオです。ただ、原題にはラジオとアクティビティーとの間にハイフンが入れられており、ラジオとも放射能ともとれるようになっています。彼ららしいユーモアです。

 表題曲はストレートに「ラジオアクティビティー」とハイフンは入りません。♪キュリー夫人が発見した♪と歌っていますから放射能のことなんですが、歌詞は半分ラジオのことです。どこまでも人を喰った人たちです。

 高速道路の音とは異なり、ラジオや放射能関係の音は電子音こそが自然音ですから、とても相性が良いです。それもあるのか、前作にはまだオルガンやピアノ、ギターが使われていましたが、本作品は全てエレクトロニクスになっています。

 特に自作の電子パーカッションを持ち込んだフリューアと新加入のバルトスの二人はエレクトロニック・ドラム担当とクレジットされており、電子的なリズムに重きが置かれています。そこがタンジェリン・ドリームなどとの最も大きな違いでした。

 こうしてファンキーとも言えるリズムとシンセによるドローン・サウンドを合体させ、さらに耳につくポップなメロディーを加えることでクラフトワークの音楽が出来上がりました。そしてメインとなるテーマも今作では終始一貫しています。

 彼らのアルバムはタイトルを言われるとシンプルなフレーズが同時に脳内に出現します。これだけシンプルだとあらがえない。♪ぴぴっぴぴぴぴ ぴぴっぴぴ♪伝わりましたでしょうか。これがポップの真髄でしょう。素晴らしすぎます。

 スリーマイルもチェルノブイリも福島も本作品の後の出来事です。まだまだ夢のある時代でしたから、彼らは脳天気に放射能のことを歌いました。そんな彼らは、事故後、反核の立場を支援することになります。責任のとり方としては天晴なことです。

 この頃のクラフトワークのヨーロッパでの人気はかなりのもので、本作品はフランスでは1位に輝いています。ドイツ本国よりも他の大陸ヨーロッパ諸国での人気が高いわけです。日本はまだ「アウトバーン」を消化できておらず、何とも煮え切らない状況でした。

Radio-Activity / Kraftwerk (1975 Kling Klang)