1980年頃にはパンク/ニュー・ウェイブの受け皿となるインディペンデント・レーベル、いわゆるインディーズが英国で大きな力になっていました。日本も負けていられないとばかりに、ピナコテカ、テレグラフ、かげろう、ナゴムなどさまざまなインディーズが登場します。

 メジャー・レーベルもその流れに鈍感ではいられなくなったと見えて、トリオ・レコードがインディーズのPASSレコードのディストリビューションを手掛けます。そして、1980年にはベルウッドを立ち上げた三浦光紀氏がジャパン・レコードを設立します。

 このジャパン・レコードは英国インディーズの雄であるラフ・トレードの作品を本邦で発売するなど意欲的な活動を見せ、日本のパンク系アーティストを積極的に世に送ります。町田町蔵(現:町田康)のINUが典型です。青春のアイドル伊藤つかさもジャパンですが。

 一方、演歌の大御所遠藤実が社長を務めたミノルフォンは徳間書店に買収されて徳間音楽工業に名を変えていましたが、ここでロック専門のクライマックスなるレーベルを作ることになります。遠藤ミチロウのザ・スターリンはここからメジャー・デビューしました。

 その徳間とジャパンは1984年に合併して徳間ジャパンとなります。恐らくパンクやニュー・ウェイブ改めオルタナティブに熱い想いを抱いていたスタッフも多かったのでしょう、1987年には徳間ジャパン内に「日本初のパンク・オルタナティブ専門レーベル」が誕生しました。

 それがWAXレーベルです。同レーベルはもちろん新作の制作も手掛けますが、同時に「80年代初頭に同時多発的に出現し、カオティックな状態にあったインディーレーベルの音源のサルベージを行い」ます。先のPASS勢もここから再発されました。

 本作品はレーベル誕生30年を記念したと思われるレーベルのベスト・セレクションです。選ばれているのはINU、ザ・スターリンを始め、レーベルの名付け親となったレックのフリクション、フリクション仲間のチコ・ヒゲ、恒松正敏など日本のパンク界の大御所が中心です。

 典型的なパンクスのザ・スター・クラブ、オルタナの王者あぶらだこ、関西からS.O.Bに赤痢、テクノ御三家の一つP-MODEL。ちょっとポップよりなカーネーション、そして世界に誇る少年ナイフ。ここまで全17曲、フリクションと恒松正敏を除けばすべてWAX再発組です。

 フリクションと恒松はレーベルによる新録ですが、すでに大御所ですから、レーベルが発掘したアーティストで本作に選ばれているのは面影ラッキーホールの1曲のみです。このあたり、レーベルの性格をよく表しています。

 本作の宣伝文句が揮っています。「若い時にパンクスじゃない奴はバカだ!齢取ってもパンクスの奴はもっとバカだ!」。レーベル発足30年、これを聴いてる私もバカだということになります。バカで何が悪い。実に気持ちのいい自虐ぶりです。

 しかし、懐かしがっていてはいけません。ここに収録されたアーティストの皆さんの中で昔の名前で出ている人はいません。ほとんどが現役で進化し続けている人ばかりです。立ち止まって懐かしがっていると置いて行かれます。やはり本物は違います。

Wax Records Best Selection / Various Artists (2017 Wax)