初めてバンド名を聞いた時には、四人のギャングたち、とは何と可愛らしい名前だろうかと勝手に思ってしまいました。実はあの四人組を指す言葉だと知った時には驚きました。同時に、極めて政治的なバンドだということがようやく了解されたのでした。

 アルバムが発表された時にはまだ中国の四人組が逮捕されてそれほど日が経っておらず、裁判はまだ始まっていませんでした。中南海の政争の激しさは、江青女史の毅然とした態度を象徴として、世界に大きな衝撃を与えたものでした。

 ギャング・オブ・フォーはイングランド北部のリーズ大学にてアンディ・ギルとジョン・キングが結成したバンドです。ドラムのヒューゴ・バーナムは当初からのメンバーですが、ベースのデイヴ・アレンは途中加入です。

 デイヴの前任者は「メッセージを理解していない」として解雇されています。それほど彼らは音楽も歌詞も妥協しない姿勢を貫いており、毎晩毎晩夜を徹して議論に議論を重ねて音楽活動を続けました。大学生だけに極めて純粋です。

 当時、サッチャリズムの英国では失業と貧困が広がっており、それはリーズを含む北部工業地帯ではさらに顕著でした。そんな中で資本主義の矛盾をえぐるギャング・オブ・フォーの姿勢は極右が台頭する環境にあっても大いに若者の支持を得ました。

 最初のライブは1977年5月ですから、活動開始からさして間がありません。さらに、バズコックスやスージー&ザ・バンシーズなどとライブを続け、1978年にEPを出すと、NME誌の表紙を飾り、これがメジャー・レーベルEMIとの契約に繋がります。

 そうして発表された作品がこの「エンターテイメント!」です。レコーディングは5週間、朝から夕方まで行われ、終わってからは皆で飲みに行くというサラリーマン・スタイルでなされています。それにメジャーとの契約にもこだわりはありません。思想的に強いです。

 ギターのアンディ・ギルは「ギター、ベース、ドラムに純化することとした。シンプルな形でそれぞれの声が聞こえるようにしたかった」と言っています。言葉通り、オーバーダブや特殊効果も最小限にとどめたシンプルなロックが奏でられます。

 よく引き合いに出されるのがパブ・ロックのドクター・フィールグッドです。アンディのカッティング主体の硬質なギター・ワークはウィルコ・ジョンソンに連なります。そしてなぜかフリー。ギャング・オブ・フォーのサウンドは実はロックの王道です。

 時にはリードをとるほど音楽的なデイヴのベースは、やたらとフラットなヒューゴのドラムと絡んでアンディのギターにジョンのボーカルを支えます。このごつごつしたアンサンブルは後に多くのミュージシャンに影響を与えることになりました。

 ポスト・パンクと言われますが、むしろ十分にパンクです。四人のギャングたちは歌詞の深刻さにも係わらず、溌剌として元気いっぱい。ロックのルネッサンスとしてのパンクのあらゆる特徴を備えた青春の輝きに満ち溢れた作品です。

Entertainment! / Gang Of Four (1979 EMI)