1980年代初めに英国のニュー・ウェイブ勢と肩を並べる米国のバンドといえば、トーキング・ヘッズ、ディーボ、そしてB-52’sくらいだったでしょうか。ラモーンズなどパンク勢は多かったですけれども、ニュー・ウェイブ的なアーティストは少なかった。

 そんなわけでB-52’sのアルバムをトーキング・ヘッズのデヴィッド・バーンがプロデュースすると聞いても全く意外な感じはしませんでした。どちらも日本ではプラスチックスと意気投合していたようですし。

 もともと両者はマネージメント会社が同じで、ツアーも共にしていたそうです。仲良しだったんでしょう。しかし、仲良しだからいいというものではありません。すったもんだの末、結局、フル・アルバムに至らず、ミニ・アルバムとして発表されることになってしまいました。

 B-52’sは前作の後、前作と前々作の楽曲をミックスしたミニ・アルバム「パーティ・ミックス」を発表します。それまでのものはパーティー用ではなかったのかと驚いてしまいますが、ノン・ストップのミックスはそれなりの需要があったようです。

 しかし、それも苦肉の策であった様子です。なかなか新作が出ないために埋め草を用意したと言われても仕方ありません。ようやく新作となる「メソポタミア」の制作が開始されたのは「パーティ・ミックス」発表の2か月後、「禁断の惑星」からは1年後のことでした。

 前作は用意周到に曲がストックされていましたが、本作の制作にあたっては曲は用意されておらず、曲を書きながら録音することになりました。しかし、曲作りは遅々として進まず、一方、他のプロジェクトも抱えていたバーンの時間もとれず、と、作業は捗りません。

 しかも、これまでとは違ってバンド・メンバー以外に大勢のミュージシャンが呼ばれて演奏に加わっています。ボーカルも演奏もオーバーダブが重ねられていますから、工数自体も多い訳で、アルバム制作は難航した模様です。

 バーンは当時彼が追及していたアフリカンなリズムをB-52’sに持ち込みました。前作までの軽やかなリズムではなく、反復する呪術ビートが全編を貫いています。明るいビーチから馬小屋に引っ越したような変化です。

 一方、フレッド・シュナイダーのボーカルの比重がかなり減っており、シンディー・ウィルソンとケイト・ピアソンの二人がほぼ全編で歌っています。アフリカンなリズムにちょっとレトロな女声ボーカル。これはこれでミスマッチの妙が堪能できます。

 ゲストの中ではトム・トム・クラブにも属していたパーカッションのスティーヴ・スケイルズが目を惹きます。本作もトムトム的なんです。バーンの中ではB-52’sとトム・トム・クラブは同じカテゴリーに属していたのでしょう。

 結局、バンドとバーンとの間には確執が生まれ、10曲予定が6曲しか収録できませんでした。「メソポタミア」も「ケーキ」も「ラヴランド」もどれもこれもいい曲なのに若干暗めです。確執も影響しているのでしょう。これはこれで面白いアルバムなんですが。

Mesopotamia / The B-52's (1982 Island)