ガーナは私の大好きな国の一つです。西アフリカにはいろいろな国がありますけれども、中でもガーナはとびきり素敵な国です。何と言っても治安はいいし、人々はのんびりしていて、お近くのナイジェリアなどとは天と地ほども違いがあります。

 ガーナの商店街を散歩する際、「すりに気を付けろ。最近ナイジェリア人が増えたから」などと注意されたことを思い出します。西アフリカには各国の人柄をデフォルメするお笑い芸人がいました。彼によればガーナ人はまるで藤山寛美のような呑気ぶりだったそうです。

 初めてガーナを訪問したのは1990年代の初めごろでした。その予習として入手したのがこのCDです。1920年代にガーナで誕生した大衆音楽ハイライフのキングと呼ばれるE.T.メンサーの1950年代の演奏を集めたコンピレーションです。

 ガーナは英国の植民地時代にはゴールド・コーストと呼ばれており、金やカカオでずいぶんと活気を呈していました。英国の植民地貴族たちも羽振りが良かったようで、文化生活も充実していたいました。その中で、さまざまな文化が交錯して生まれたのがこのハイライフです。 

 もともとガーナ人はお洒落な民族です。その中でもとびきりお洒落で豊かな都会の男女がブラックタイや夜会服に身を包んで、夜な夜なダンスに興じた際に、演奏されていたのがこの音楽です。誰が言うともなくハイライフと名付けられることになりました。

 ハイライフはもともとは米国からヨーロッパ経由で伝わったジャズに、ガーナ土着のリズムをこね合わせて、ラテン音楽の風味をまぶしたような音楽です。アフリカ音楽という言葉から想像される太鼓どんどこの重い音楽では決してありません。

 むしろ、カリプソやチャチャチャ、ルンバといったラテン音楽に感触が似ています。メンサーのこのCDにもカリプソやサンバの曲が含まれていて、全く違和感がありません。ちょっとおしゃれに着飾ってステップを踏みたくなるような音楽ですから。

 ガーナの首都アクラやタコラディを訪問した際、ナイトクラブに足を踏み入れてみますと、実に皆さんが陽気にステップを踏んでいました。その時、このメンサーの曲も流されていました。全盛期から50年を経てなお国民に愛されています。さすがはキングです。

 エマニエル・テッティー・メンサー、通称ETメンサーは1919年にアクラで生まれました。もとは白人のバンドだったテンポスを自分のバンドとしたのが1948年のことで、以降、1996年に亡くなるまでガーナ国民のみならず汎アフリカ的な尊敬を集めました。

 この作品は78回転のSP盤からリマスターした音源を集めています。アフリカンにスウィングするリズムに歌うような管楽器、そして飄々としたボーカルが楽しい音楽です。軽やかに踊るためにある音楽はとてもほんわかしています。

 ワールド・ミュージックのブームの時には、若いスターがいなかったことから、ガーナは今一つ奮いませんでした。大変残念です。アフロ・ビートともリンガラとも違う、都会的な洗練が西アフリカにあったことをは覚えておいてよいです。

All For You / E.T. Mensah (1990 RetroAfric)