長戸芳郎&”名盤の殿堂”選定委員会が監修する「名盤の殿堂」シリーズの一枚として、紙ジャケ再発されたアルバムです。これほどシリーズ名に相応しいアルバムもありません。思わず唸ってしまいました。

 「名盤の発掘」というには知名度が高すぎる。一方で、黙ってても売れるというほど人気があるわけでもない。殿堂入りの名盤だと紹介されて、初めて、「ああそうだそうだ、これは名盤だった」と思い出す。そんな位置づけにある作品です。

 デイヴ・メイソンは天才スティーヴ・ウィンウッドとともに結成したトラフィックでデビューした人です。トラフィックでは、メイソンが初めてリード・ボーカルをとった「ホール・イン・マイ・シューズ」が全英2位に輝くなど、スティーヴに負けぬ活躍をしています。

 しかし、何だかよく分からない理由でトラフィックを脱退したり復帰したりとややこしい動きをした挙句、結局はトラフィックを脱退し、アメリカにわたって制作した初のソロ作品がこの「アローン・トゥゲザー」です。

 トラフィック仲間のジム・キャパルディなども参加していますが、基本的にはメイソンが単身で米国にわたって、ディープなアメリカン・ロックを演奏する連中とともに作り上げたアルバムです。エリック・クラプトンのデレク&ザ・ドミノスなどの先駆けとも言えます。

 実際、デレク&ドミノスとなるジム・ゴードンとカール・ラドルも参加していますし、何よりもメイソン自身がドミノスに誘われたとのことです。メイソンの「いとしのレイラ」も聴いてみたい気がしないではないです。

 参加ミュージシャンのうち、有名どころはレオン・ラッセル、リタ・クーリッジ、デラニー&ボニーなどで、並べてみるだけで独特のサウンドが浮かび上がってくる気がします。さらにジョン・レノンとも相性がいいジム・ケルトナーもいます。

 要するに、当時はカントリー・ロックなり、スワンプ・ロックなりと呼ばれていた、ブルースに根差したロックとアメリカンなルーツ・ミュージックを融合させたようなサウンドが特徴です。サイケデリックから流れてくるアメリカン・ロックの王道です。

 ライナーノーツでギタリストでもある伊藤銀次さんがメイソンを「我が青春のフェイヴァリット・ギタリスト」と呼び、その「ゆったりとしたアプローチながら、メロディーを何よりも大切に、まるで歌うようにプレイするところが僕の心の深いところに響いた」と書かれています。

 確かに、ギターを派手に弾きまくるよりも、バンドのアンサンブルを大事にしつつ、泥臭い歌声によるボーカルを前に立てて、サイド・ボーカルのようにギターを弾いています。私の世代だと、まさにロック耳を創りあげてくれたサウンドです。聴き手にとってのルーツ・ロックです。

 メイソンはその後迷走気味の活動を続けますから、結局、この初ソロ作が最高傑作だと考える人も多いです。そうではない人でも「名盤」であることは衆目の一致するところです。殿堂に入れるにふさわしいアルバムです。

Alone Together / Dave Mason (1970 Blue Thumb)