マンフレッド・アイヒャーは一体いくつになったのか、調べてみるとこのアルバムをプロデュースした時点で73歳です。ECMレーベルを始めてからでもほぼ半世紀が経過しています。それでこの充実ぶりは凄まじいです。

 1980年にスイスで生まれたピアニスト、コリン・ヴァロンを中心とするトリオによるこの作品はECMから発表されました。プロデュースはもちろんアイヒャーです。コリンのECMからのアルバムはこれが三作目です。前作からは3年が経過しています。

 これは典型的なECMサウンドです。ECMから出るべくして出た作品だろうと思います。他の誰かに似ているというわけではなく、ジャズはジャズでも凛として冷え冷えしたクールなサウンド風景がECMのカラーにぴったりなんです。

 コリン・ヴァロンのトリオは、コリンのピアノ、パトリス・モレのダブル・ベース、ジュリアン・サルトリウスのドラムというピアノ・トリオの王道です。2012年にドラムがジュリアンに代わって以来、この三人のトリオで活動しています。

 トリオは2015年10月には来日も果たしており、東京、大阪、福岡、岡山で公演をしています。ECMの新星ということで大いに盛り上がった模様です。やはりECMブランドの日本での威力は絶大です。またそのブランド・イメージは全く損なわれない。

 ヴァロンは、当初クラシックを学んでいましたが、両親の影響を受けてジャズに入れ込み、学ぶ対象はジャズに変更、10代の終わりにはすでにジャズ・トリオを結成して活動を開始しています。古楽や現代音楽にも詳しく、ニルヴァーナ育ちを公言するロック男でもあります。

 その彼が生み出すサウンドは、エレクトロニクスも使われておらず、驚くべきことにポスト・プロダクションもないのだそうです。使用する楽器もすべてアンプラグドと徹底しています。「巷のトレンドなど一顧だにせず、決然と我が道を進む」人です。

 モレの重厚なベースとサルトリウスの極めて繊細なタッチのドラム、そこにヴァロンのピアノが加わります。もちろんヴァロンがリーダーではありますが、伴奏とソロという関係にはありません。あくまで三者が一体となって空間が構築されていきます。

 三者ともにばりばり弾きまくるというわけではなく、どちらかと言えば静かにサウンドが紡がれていきます。枠組みが提示されて、その中でインプロヴィゼーションが行われていく形はまさにジャズそのものですが、全体のトーンはポスト・クラシカル的でもあります。
 
 アルバム・タイトルはフランス語で「ダンス」とありますが、踊るのは演奏者の方で、フロアを意識しているわけではありません。しかし、次第次第に強度を増してくる静かで強靭なリズムはタイトルに相応しくもあります。ポップに流れるでもなく、ダンスにも媚びない。

 そして、エモーションの質がアート的です。こんなトリオ・サウンドは聴いたことがない。やや題名に難があるものの、ワルツが次第に盛り上がっていく「ツナミ」の美しさはどうでしょう。シンプルでアコースティックなトリオ編成にまだこんな可能性が残されていたとは驚きました。

Danse / Colin Vallon Trio (2017 ECM)