1977年2月に起こったフェラの自宅兼活動拠点となっていたカラクタ共和国襲撃事件以降、フェラは怯むどころか、ますます過激に自身の主張を繰り広げるようになります。不屈の精神力です。この中から一連の名作が誕生しています。

 1978年に発表されたA面B面通して一曲という「シャファリング・アンド・シュマイリング」も当時発表された傑作群の一つに位置づけられます。大変な目にあったにも拘わらず、こうして傑作をものするわけですから本当に凄いです。

 この楽曲はメーカー資料によれば、「フェラの作品の中でも最もどぎつく反キリスト、反イスラム教徒について歌っている作品」です。キリスト教もイスラム教も侵入者によって強制されたものに過ぎず、大いなる負のインパクトを与えていると歌うのです。

 アフリカにはアフリカ固有の精神がある。フェラは生涯を通して、キリスト教にもイスラム教にも心を動かされず、晩年になって、重い病気になった時でも、アフリカ固有の精神と医療に信を置き続けた人です。

 一部のアフリカではキリスト教の歴史も古いですが、一般的にはイスラム教の方が断然歴史が古いです。より広い地域に古くから広がっているわけで、植民地支配の生々しい記憶に結びつくキリスト教と違って、イスラム教がやり玉に挙がることは少ないです。

 しかし、そこもフェラは一刀両断です。キリスト教もイスラム教もアフリカの社会的精神的な価値観を貶めた点では同罪だと。アフリカの人々に劣等感を植え付け、地域紛争を助長し、さらには富を収奪していった。

 さらにはどちらの宗教でも、人々は♪この世では苦しめ、天国で楽しめ♪と諭される一方で、キリスト教の司教もイスラム教のイマームも現世利益を楽しみ、安楽な暮らしをしている。要するに腐敗しているわけです。

 ますます舌鋒鋭いフェラです。サウンドも典型的なアフロ・ビート・サウンドです。両面合わせて20分強に過ぎないところがやや物足りませんけれども、テナー・ギターのミニマル・フレーズから、ホーン陣の充実ぶりから何から何までいい線いっています。

 ジャケットには「なぜアフリカの信仰じゃいけないのか」の文字が添えられ、お金に貪欲な司教とイマームを左に、古代エジプトのフィギュアを右手に配するという不思議な絵柄です。アフリカの精神的な拠り所を古代エジプトに求めるのはサン・ラーと同じです。

 アフリカ75のトランペット奏者はレスター・ボウイの影響を受けて、ボウイそっくりの演奏をするようになったとボウイが笑っていますが、ここではさほどそれは感じられません。ただ、ホーン陣の進化充実ぶりはその経験あってのことでしょう。
 
 さて、シャファリングはサファリング、シュマイリングはスマイリングのことだと思われます。現世でのサファリングに来世でのスマイリングということでしょう。なぜスじゃなくてシュなのか。これもビジン英語なのでしょうか。

Shuffering And Shmiling / Fela Anikulapo Kuti & Afrika 70 (1978 Coconut)