1977年、フリー・ジャズ界の巨人アート・アンサンブル・オブ・シカゴのトランペット奏者レスター・ボウイは念願のアフリカに旅立ちました。何の目的もなく、ヨーロッパ・ツアーが終わった時に片道切符を買って、ナイジェリアに降り立ちます。

 当時、ボウイはフェラ・クティのことを知らなかったそうですが、ラゴスで泊まったホテルのレストランで、ボーイに「フェラに会うべきだ」と言われて、さっそく翌朝トランペットと自分のレコードを持ってフェラに会いに行きました。

 フェラはボウイのことを知っており、ボウイがフェラの目の前でトランペットを吹くと、その瞬間からボウイはフェラの根城となっていたクロスロード・ホテルでフェラの客人となりました。ボウイはここで7か月をフェラとともに過ごします。

 その間、フェラとボウイは主にスタジオで共に演奏していました。時期が少しでもずれていれば、1977年2月のナイジェリア政府軍によるカラクタ共和国がなければ、恐らく二人は夜な夜なライブを繰り広げたことでしょうに残念なことです。

 「ノー・アグリーメント」は1977年に発表された作品で、レスター・ボウイのトランペットが聴ける貴重な録音です。恒例のAB面一曲ずつの構成で、A面がタイトルとなった「ノー・アグリーメント」、B面が「ドッグ・イート・ドッグ」の2曲です。

 この「ドッグ・イート・ドッグ」はフェラ作品としては大変珍しくインストゥルメンタルになっています。ボーカルがない分、ホーン陣が大活躍しています。それぞれのソロも見どころですし、アンサンブルも派手です。

 「ノー・アグリーメント」は、テナー・ギターが延々と反復するミニマルなフレーズに導かれ、ギターやオルガン、さらにはホーン・セクションがねっとりと絡む、典型的なアフロ・ビートの楽曲です。歌詞も当局と妥協なんかしないぞという決意の表明です。

 ボウイのトランペットはフェラのアフロ・ビート・サウンドにあっては、とても新鮮に響きます。明らかに異質な両者の出会いが、いつに増してフェラのサウンドを中身が濃いものにしています。フェラのサックスもいつもと少し違います。

 「ドッグ・イート・ドッグ」は、さながらホーンの実験のようで、ボウイがアフリカ75にもたらしたものの大きさを伺い知ることができます。こちらのアフロ・ビートもミディアム・テンポの粘っこいもので、1977年にもフェラは充実していたことが分かります。

 それにしても、カラクタ共和国炎上という悲劇の後、ボウイが会った時にもけがをしていたフェラが一たびスタジオに入るとこのような充実した演奏を繰り広げるとは恐ろしいまでのパワーです。やはりフェラは超人です。

 ボウイはフェラと大いにうまくやっていましたが、状況は次第にきな臭さを増し、自身の偏頭痛も起こったということで、帰国の途に就きます。裁判所にも付き添ったという、あの時期に7か月も居られたことが奇跡でしょう。二人の邂逅をもたらした奇跡に感謝です。

参照:Lester Bowie on Fela Kuti (1999)

No Agreement / Fela Kuti (1977 Decca)