私は水玉消防団のコンサートを見たことがあります。たった一度ですけれども、西武劇場で行われたコンサートはとても楽しいものでした。ゴジラの着ぐるみが出てきて天鼓と踊ったり、途中で観客相手にイントロ・クイズがあったり。リラックスした大人のライブでした。

 演奏はもの凄い迫力でした。ファースト・アルバム所収の「艶消しの闇」での天鼓のギターは、ステージが終わってからもギターをかき鳴らし続けるというテッド・ニュージェント伝説を思い出すほどでした。

 セットの途中では天鼓とカムラの二人によるボーカリゼーション・ユニット、ハネムーンズのセットがありました。スクリーンには「海のトリトン」が映し出されており、インプロビゼーションによる声の競演は素晴らしかったです。記憶に残る良いコンサートでした。

 この作品は1985年に発表された水玉消防団のセカンド・アルバムです。CD再発はファーストとセットでCD2枚組となっていますので、ジャケット写真は共通のものを載せました。オリジナルは五人の顔をコラージュした洒落たジャケットでした。

 水玉消防団は1978年に結成して1988年に活動を停止しますから、正味活動期間は10年です。その間、日本全国の主にライブハウスをツアーしてまわっています。その他にオールナイト・コンサートや学園祭、さらにはフェスティバルへの出演も多いそうです。

 それだけライブをこなしていれば、自ずと演奏力は向上します。結成当時はまるで素人だった5人もここでは堂々たる演奏を披露しています。ファースト・アルバムに比べると格段に引き締まった演奏となっています。緩さも彼女たちの魅力ではありましたが。

 水玉の曲の作詞は天鼓とカムラの二人が担っています。本作品ではカムラが3曲、天鼓が9曲、それぞれ自分の曲は自分でリード・ボーカルをとっています。楽器の担当も含めると、まさにレノン・マッカートニー状態です。

 二人の個性を一言で言えば、カムラさんは地下深くに向かい、天鼓さんは天上に向かっています。ロック志向とアート志向と言い換えることもできます。この二人の個性が絡み合って恐ろしい水玉サウンドが形成されています。

 本作品では二人のバランスはぎりぎりのところで保たれていますけれども、ファースト・アルバムの脳天気な佇まいは薄らぎました。緊張感が孕まれて、そのサウンドはよりシリアスに、よりアート寄りになってきています。鼻歌では歌えなくなってきました。

 蜷川幸雄は本作品に寄せたライナー・ノーツで、「聴いているものが決して歌うことができない彼女たちの歌は、再生産できないことによってますます過激である。ざまあみろ。鼻歌による再生産なんてごめんだよ。」と書いています。確かに。

 最後の曲はタンゴの「完全な時」。これとファーストの最初の曲「フー・アー・ユー」を聴き比べてみると、水玉がどれほど遠くに来たのかよく分かります。それぞれに魅力の方向が異なっており、3枚目はないだろうなという予感は不幸にして当たってしまいました。

Manten Ni Akai Hanabira / Porka Dot Fire Brigard (1985 筋肉美女)