スタイル・カウンシルの作品は従来の枠にとらわれず、シングルやミニ・アルバム、さらにコンピレーションが混在していて、ややこしいことこの上ありません。その中で、この作品はフル・アルバムとしては2作目ということになります。

 またまたお洒落なジャケットです。裏に回るとソウルの巨人オーティス・レディングのTシャツが大きく写っていたり、ビートルズのポスターが貼ってあったりと、いろんな読み方ができる興味が尽きないものになっています。

 私としては、表面の「アナザー・カントリー」に注目したいです。1983年に公開された英国のパブリック・スクールを舞台にした背徳の映画で、ルパート・エヴァレットの妖しい魅力が全開でした。なぜこれがジャケットに。深読みは避けましょう。

 そんなジャケットなのに、この作品は当時の世相を反映して、徹底的に政治的な社会派アルバムです。ザ・ジャム時代以上に、激烈に政治的なメッセージが込められています。スタイル・カウンシルなのにどうしたことかと思ったものです。

 しかし、その姿勢が疎まれたのかといえば全くそんなことはなく、本作品はスタカン唯一の英国ナンバー・ワン・アルバムとなりました。怒れる若者の代表としてのポール・ウェラーが戻ってきたのです。

 当時の英国は新自由主義そのもののサッチャリズムの真っ只中にあり、獰猛な市場による淘汰が庶民を苦しめていました。その象徴的な出来事が1984年の大規模な炭鉱労働者のストライキです。この頃からスタカンは生まれ変わった模様です。

 本作はその新たなマニフェストであり、当時のサッチャー首相を首相官邸の「間借人」と指摘する「ロジャーズ」や、新自由主義の代表的な経済学者ミルトン・フリードマンを皮肉る「カム・トゥ・ミルトン・キーンズ」など、かなり直截なメッセージが発射されていきます。

 バブルへ向けてまっしぐらだった日本では、こうした英国事情は対岸の火事で、なかなかリアリティーを感じにくく、後になってポール・ウェラーの放ったメッセージが骨身にしみることになるとは思ってもみませんでした。

 もちろんナンバー・ワン・アルバムですから、政治的な主張のみならず、サウンドも素晴らしい。前作と同様に、ジャズやソウルなどのスタイルを縦横無尽に取り入れていますが、圧倒的な統一感があります。拡散せずに中心に向かっています。

 ただし、その分、遊び心がやや希薄になっており、英国その他での大成功の割には米国ではさっぱりでした。米国経済は懐が深いだけに、レーガノミクスは米国民の心情にそこまで酷い爪痕は残さなかったのか、社会派部分は響かなかった模様なのは残念です。

 ポールは「自分でここまで積極的にこれだ!と思えるアルバムは初めてだ」と自信のほどを述べています。ミック・タルボットという盟友を得、さらに奥さんディー・C・リーも参加、スタカンはここで一つの頂点を極めました。

Our Favourite Shop / The Style Council (1985 Polydor)