イギリスの若者の休日の過ごし方の一つに、「パリに行ってカフェに座り、日がな一日、フランス美女を眺める」というものがあります。ロンドンのカフェはなぜかお年寄りの憩いの場的なイメージがあります。やはりフランスは憧れの地です。

 「カフェ・ブリュ」には、「ブルー・カフェ」としたのでは得られないお洒落感があります。日本人だからそう思うのではなく、イギリス人にも共通の感覚です。このアルバムは思いっきりお洒落なアルバムを作るぞと宣言されているのです。

 ジャムはパンク期のイギリスの若者にとっては特別なバンドでした。パンクの象徴はセックス・ピストルズやクラッシュでしょうが、当時の若者の青春を代表するのはザ・ジャムでした。一身に期待を担うポール・ウェラーには重荷だったことでしょう。

 スタイル・カウンシルはザ・ジャムを解散させたポール・ウェラーが、オルガニストのミック・タルボットと結成したユニットです。二人は、フランス映画だとかジャズやソウルなど、愛好する趣味が似通っており、相性はピッタリだったようです。

 ジャムへのみんなの思い入れはとても強かったので、スタイル・カウンシルには大きな注目が集まりました。このアルバムは彼らのフル・アルバムとしては最初の作品です。ここまでの作品も戸惑いを与えるには十分でしたが、この作品は大いに賛否両論を巻き起こしました。

 冒頭の「ミックズ・ブレッシング」はいきなりミック・タルボットの流麗なジャズ系ピアノです。この曲を含め、全13曲中5曲がインストゥルメンタルですし、ラップ、ジャズ、ソウル、ラテンなどさまざまなスタイルで、ロックでなければなんでもいいと言わんばかりです。

 実際には後期のジャムはさまざまな音楽スタイルを混淆させていましたが、それでも一般にはジャムと言えば青春疾走ロックでした。そこに自身を投影していたファンにはこのサウンドはなかなか受け入れがたかったと思います。

 しかし、封入されたブックレットのこじらせた文章といい、ジャケットに記載されたフランスの左派過激派のヒーロー、ジャン・ポール・マラーの言葉といい、若気の至りと言ってよい部分は残されており、そこは一貫したポール・ウェラーらしさだと言えます。

 ゲストとして、「パリス・マッチ」にベン・ワットとトレイシー・ソーンのエヴリシング・バット・ザ・ガール組が参加しています。ネオアコと呼ばれる彼らですが、むしろ新しいジャズ的な音楽スタイルでしたから、スタカンのサウンドとは方向性が似ていて、相性抜群です。

 彼らの米国での唯一と言ってよいヒット曲「マイ・エヴァー・チェンジング・ムード」は、ここではアコースティック・バージョンになっています。そこが少し残念ですけれども、あの素晴らしいポップなアレンジをここに入れると違和感があるのも事実なので我慢しましょう。

 とにかくいろんなスタイルが混在していて、思いっきりお洒落なサウンドです。特にミック・タルボットのオルガンは最高です。この作品は後のクラブ・ミュージックにおけるジャズやソウルの消化のされ方を先取りしていたとも言えると思います。

Café Bleu / The Style Council (1984 Polydor)