12インチ・シングルが一般的になったのは、1980年代に入ってからです。そして、そこにはバージョン違いを収録することがどんどん増えていきました。その後、リミックスという手法が特殊なものでなくなるのに時間はかかりませんでした。

 この大きな要因にエレクトロニクスの発達があるのはもちろんですが、もう一つ要因があります。レコードへの物神崇拝の衰退です。本作のジャケ写を見てください。レコード盤をのこぎりで切ろうとしているところです。

 レコードは高価でしたし、そもそも傷つきやすいので、必要にも迫られて大事に扱うものでした。それは中身にも伝播し、溝に刻まれた音楽も神聖不可侵なものでした。そこにヒップホップが登場して、その常識を覆します。

 まずはスクラッチ。初めて見た時には悲鳴をあげそうになってしまいました。なんてことを...。そしてリミックス。中身も切り刻まれ、足され、再構築されていきました。制作過程では当たり前でも、完成作品にそんな蛮行を施すとは神をも恐れぬ所業です。

 ウォズ(ノット・ウォズ)は12インチ・シングル、そしてリミックスがむしろ本業とも言えるグループでした。今では当たり前でしょうが、当時は、そんな人たちはそうそういませんでした。その姿勢だけで、十分にパンクな趣きを感じたものです。過激です。

 本作品のジャケットは1984年に発表されたウォズ(ノット・ウォズ)のリミックス集のものです。コンピレーション・ミニLPでした。しかし、その後、CD化するに際して、オリジナルはほとんど再編集され、75分に及ぶ堂々たるアルバムになりました。

 ジャケットは日本盤を紙ジャケで出すために選ばれたのでしょうが、そもそも表に収録されていると書かれている「アウト・カム・ザ・フリークス」のオリジナルはCD化に際してカットされています。裏面の曲名リストも半分は合っていません。ちょっと無理がありました。

 ただ、本作品はリミックス&Bサイドを集めたものなので、これはこれで十分に貴重です。ウォズ(ノット・ウォズ)の真骨頂が存分に発揮されています。全部で10曲ではありますが、全体を通して一曲としてもおかしくはない、ハウス、テクノ的な作品になりました。

 リミックスはほとんど本人たちが手掛けていますが、2曲だけケン・コリアの手になる曲があります。コリアはデトロイト出身の伝説的なDJで、当時燃え上がりつつあったデトロイト・テクノの先駆者として知られる人物です。

 特にその「アウト・カム・ザ・フリークス(プリドミナントリー・ファンク・ヴァージョン)」は素晴らしい出来です。ハウス/テクノを経た耳にはクラシックな音に聴こえてしまいますが、当時は画期的なサウンドでした。

 その曲に象徴されるように、ウォズ(ノット・ウォズ)はパンク/ニュー・ウェイブから出たというよりも、ハウス/テクノの未来から来たグループだったのでした。いろんなことが随分後になって合点がいくというのは面白いものです。

(The Woodwork) Squeaks / Was (Not Was) (1984 ZE)