今回の邦題は「ウォズの魔法使い」と来ました。引っかけられたオズの魔法使いを全く思い出さないかと言われれば、どこからしら類似点があるような気がしてくるから不思議です。特にブリキの木こり。ハートを切望していたあのキャラクターです。

 ウォズ(ノット・ウォズ)のフル・アルバムとしては二作目にあたる作品です。豪華ゲスト陣がとにかく目を惹きます。インディーズに毛の生えたZEから発表され、大ヒットしたというわけでもないデビュー作が、いかに同業者に一目置かれていたかが分かります。

 まずは当時第二のビートルズと呼ばれたザ・ナックのダン・フィーガー。彼はかつてデヴィッド・ウォズとバンドを組んでいたことがあるらしいので、お友達参加ということになります。哀愁のボーカルを聴かせて秀逸です。意外にいいボーカリストでした。

 そして何のつながりがあるのか、ブラック・サバスのオジー・オズボーンです。そういえば彼は1980年にソロ・アルバム「ブリザード・オブ・オズ」を発表しています。邦題はもしやこちらとの引っかけでしょうか。

 他にも、MC5のウェイン・クレイマー、デトロイトの重鎮ミッチ・ライダーなどの地元の先輩、ジャズ界のスターになるブランフォード・マルサリスやNYで活躍していたドラムのヨギ・ホートンなどの実力派などを迎えています。

 さらに変わったところでは社会活動家のジョン・シンクレア、アイランド・レコードの創始者クリス・ブラックウェルなどのノン・ミュージシャンもいます。そして、最大の驚きはジャズ界の大御所、「まさかの」メル・トーメです。ギターとボーカルを存分に聴かせます。

 こんな大所帯で奏でる音楽は、デビュー作とはうって変わって、さまざまな音楽スタイルのカタログのようになっています。冒頭の「ノック・ダウン、メイド・スモール」からして、スウィート・ピー・アトキンソンがボン・ジョビのように歌っています。

 メル・トーメが参加した「ザズ・ターンド・ブルー」などは渋めのジャズそのものですし、その他の曲もモータウンからディスコ、ロックにジャズ、テクノ・ポップなどを行きつ戻りつして、ウォズ架空兄弟の懐の深さを遺憾なく発揮しています。

 片割れドン・ウォズは後にプロデューサーとして名を成しますが、その販促カタログにも十分に使えます。それぞれのスタイルへの造詣も深い上に、各ゲスト・ボーカリストの魅力を引き出していて見事です。プロデューサー=ミュージシャンの先駆けでもあります。

 ただし、その分「...ん?」と思うことはなくなりました。むしろ、女優キム・ベイジンガーとオジーのデュエットを聴かせるボートラ収録のリミックスにデビュー時のウォズらしさを見ます。そちらは1992年ハウスの大物スティーヴ・シルク・ハーレーによるリミックスですが。

 さらにボートラの「リード・マイ・リップス」はパパ・ブッシュ大統領の有名な公約違反スピーチを徹底的にからかっていて、ここにもウォズらしさが全開です。皮肉に満ちた曲をエンターテインメント性高く料理する彼らの活動は実に自由度が高いです。

Born To Laugh At Tornadoes / Was (Not Was) (1983 ZE)